第2話 不良と喧嘩したのはヴァン
2ー① ちょっとエッチな本持ってきただけだぞ!
ヴァン・グランハウンド、世界を救う!
この知らせは瞬く間に世界中を駆け巡った。同時に様々なことがヴァンとグレイとミリアの身に襲い掛かってきた。
まず全校生徒の前で校長が感謝の念を述べつつ表彰された。運動大会等で結果を出したときおざなりな拍手しかしないものだが、このときはほぼ全員が全力で拍手したため、グレイにしてみると体育館が揺れたように感じた。
新聞機関をはじめとした報道関係者からの取材攻勢はやむことなく行われた。記者連中が張り込み、ヴァン、グレイ、ミリアの一挙手一投足を取材しようとして、学校側とかなり揉めていた。
王族全員出席、とまではいかなかったがかなりの数を集めた貴族、財界人らの式典の招待を受けた。作法がまるで分からなったためグレイは戸惑い、ミリアは気にせず食べ進め、ヴァンは完全に礼節に添った形で対応したため一応の体面は整った。
学生の本文は学業であるという言葉は何処か遠いところに放り棄てられたようにヴァン、グレイ、ミリアの3人はそれに忙殺され、ここ一週間は全て公欠扱いとなっていた。
「………………」
ようやく色々な事態が収まり始め、学校生活を再開した一日目、ヴァンのイライラは頂点に達していた。格好こそ学生服にマントというヴァンにしてみると通常運行であったが、様子が普段とは全く違うことを理解できる人間は多数だっただろう。
歩く歩幅は大きく、地面を踏み下ろす時にわざわざ踵から打ち下ろすようにして、足音を鳴らす。苦虫を噛み潰して頬一杯に苦渋を噛み締めているかのような表情。
全身から不機嫌の雰囲気を醸し出していた。そんなヴァンの少し後方からグレイもついてきていた。
グレイはともかく、ヴァンの生徒会室に向かう姿は他の生徒の不審さを呼び起こすものだった。遠巻きに見ながら人々は口々に話し合っている。
「おいヴァン生徒会長怒ってるぞ! お前なんかしたんじゃないか」
「お、俺は何にもしてないぞ!」
「俺だってしてないぞ! ただちょっとエッチな本持ってきただけだぞ!」
「それならすぐ差し出さなきゃ! ヴァン会長に殺されちゃうわよ! エロがいいことであった時代なんていつだって存在しないんだから!」
「い、いやだ! いくらヴァン会長だからってこれを出すのは嫌だ! せっかく親父の服をこっそり持ち出して遠出した先で買い出すことに成功したんだ! それにこいつは俺の大切な友人たちに貸出することで喜びを共有、値段以上のものに進化しようとしているところ! それを止めるのはヴァン会長だって許せない!」
「努力は認めるわ! そしてそういう欲望についても! でも考えてみて! それが果たして正義かしら!? 正義を愛するヴァン生徒会長が褒めてくれることかしら!?」
返す言葉を無くした、しかし目に涙が貯まり始めるガイコツ人。その鞄を決して離すまいとしっかりと握られていた手が、若干緩む。
「俺もそう思う。いかなる理由があろうとも校則違反をしたなら、それは悪いことだ。加えて言うなら正直に名乗り出ればヴァン会長の心証も決して悪くならない」
「もしヴァン会長が何か言ってくるようなら俺だって弁護の立場に回るからさ! ここは自首しに行こうぜ!」
「…………うう……」
ついに観念したのか、ガイコツ人の男が一歩二歩とヴァンに向かって歩いてくる。時間にして数秒程度しかかかっていないのだが、その男にしてみると永遠のごとき感触であっただろう。
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