1ー⑬ 世の中の皆が幸せでありますように……
「た、大変だぁ―――――――――――!」
声のした方向へ視線を飛ばすと、魔族である獣人の教師が1人職員室から飛び出してくる。よほど慌てているのだろう、普段は整えているであろう髪の毛は乱れに乱れている。
「み、みんな急いで避難するんだ! ここから離れた遠くへ!」
「もう遅いです! あのガル何とかっていう砲台はもう発射態勢に入っているみたいです!」
グレイの言っていることは決して大げさなことではなかった。
ガルフォードの砲身はもはや全て魔法の文字が浮かび上がっていた。それがさらに輝きを増していく。
それを聞いてか、教師の顔がさらに変な形へと歪む。
「砲台!? 何を言っているんだ!?」
「あれですよあれ! あのヴァンが作った砲台!」
「はぁ!? そんなんまであったのか!? いやいや……今はそんなことに構っていられない!とにかく避難するんだ!」
その言葉に対して嘲笑するヴァン。
「ふっ……心配性なのですね、先生。ですがご心配なく。私が吹き飛ばすのはあの向こうの山だけ。人に危害を加えることだけはいたしませんから」
「何を言っているんだヴァン君! そういうことではないんだ! この場所に……この場所に!」
甲高い、鉄製の楽器を鳴らしたような音が響き渡る。
それがガルフォードの充填が完了した音だった。
「さあ、ガルフォード! お前の力を見せてみろ!」
光の刻印が緑色から赤色へと変貌していく。音がより一層響き渡る。
今まで暗闇だった砲身の中から光が零れ出てくる。
「やばい……」
グレイは感じていた。
恐怖を。
あふれる魔力を。
風を通して伝わる威圧感。まるでその中に猛獣が潜んでいる様にさえ錯覚する。それも獰猛で、容易くグレイを殺しかねない猛獣を。
「おいヴァン! 待て!」
「ガルフォード! 発射!」
「この場所に隕石が落ちてくるんだから!」
3人が叫んだのと同時、ガルフォードからの音が一瞬止んだ。
刹那、爆音。
その一瞬から貯えられた音を、一編にはき出したような巨大音が轟く。そして、魔力を凝縮して作られた、恒星の如き輝きを放つ弾丸が飛び出てくる。打ち出された力によって軌跡を描きながら、空へと、重力に反逆し昇っていく。
同時に、雲を割るようにして隕石が現れた。
蒼穹の空を一気に橙色の表面が塗りつぶして、地面めがけて落ちてくる。かなりの早さなのだが、その巨体故にゆっくりと落ちている様に錯覚できる。空気との摩擦で大量の熱が出ているのだろう。一種の美しささえ感じられそうである。しかしそれを充分に感じられるものはいなかった。
何故なら、ガルフォードの弾が隕石の表面を突き破り、
内部で大爆発を起こして
隕石が粉々になってしまったからだ。
「ん……?」
ところ変わって、農耕の発達している国に住むワーウルフのガレントさんは空に大きな輝きと流れる流星群を見た。
「こりゃーきれいだのー」
いくつも、いくつも、いくつも流れる流星を見て
「世の中の皆が幸せでありますように……」
と、手を合わせて祈った。
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