1ー⑫ しかしそれは過ちである
「ふっふっふっ……」
この含み笑いが辺りに響いていることに。
「はっはっはっ……」
辺りの騒音もあるためか、全体には届いてはいない。しかしこの違和感に気づいた者が1人、また1人と話すのをやめていき、次第に辺りは静かになっていく。
その中にグレイとミリアが含まれるのは、そう時間のかかることではなかった。
「せんぱい、これって……」
「……ああ」
ミリアは期待に顔を輝かせながら、グレイはもういいよ、と言わんばかりな顔で、現状を見送った。
と、砲台の一部が突然開け放たれ、そこから何かが飛び出てくる。
黒きものに包まれたやや細長めな物体。としか表現の仕様が無いものが。
それは空中で停止しそして開かれる。端から捲れ上がり一人の男が姿を現す。
「ふっふっふ……はっはっはっ……はっ!! はっはっはっはっはっはっ!!」
背を仰け反らせ、大声で笑っている男、ヴァン・グランハウンドが。
しかしそれは長続きしなかった。やがて止まり静かな世界となる。いや、風の音があるため完全な無音状態にあるわけではない。
「この学校にいる全ての人族、魔族に告げる! 私の名前はヴァン! ヴァン・グランハウンド! あなた方と同じこの学校の一学生であり、あなた達が選んだ生徒会長にして……魔王となる男だ!」
「おい、あれ……」
「ヴァン生徒会長、よね……?」
「あんなところで何してるんだ?」
口々に人々は感想を述べる。不安、疑問。それはヴァンの心を満たしたようであり、口元に称えた笑みの深さが増した。
「あなた方は選んだ! 私が生徒会長に、生徒達の頂点にある玉座に座ることを! しかしそれは過ちである」
「ええ!? 何でですか会長!」
ヴァンから告げられた言葉にミリアは食って掛かった。
「それはあなた方が自らの手で、絶望の扉を開けてしまったからだ!」
手でマントをはためかせ、何度となくグレイが見てきた格好を取る。
「あなた方がどういうつもりで私を生徒会長に選んだのか、その理由は敢えて問いはしない。大方、私から抑えようとしても溢れだしてしまう高貴さに駆られ、投票してしまったのであろうがな」
「お前しか会長候補がいなかっただけだっつーの!」
自己陶酔に浸るヴァンに、グレイは無視されることが分かっていながらも、突っ込まざるを得なかった。そして、それは案の定そうなった。
「しかしそれこそが間違いであったのだ! この私に生徒会長という権力と地位を与えてしまった。これは猛虎に羽をつけるが如き行い! そしてその結果がこれなのだ!」
煙突の方へと振り返り、両手を上げる。さながら神官が神を称えるように。
「見るがいい! この巨大にして鈍い光を輝かせる砲台、『ガルフォード』を!人族の発想から生まれた科学と魔族の歴史と共にあった魔法の
水を打ったような静けさ。
誰も何も言おうとはしない。
この事態に反応をとれないでいる。しかし、ヴァンは全く止まろうとせず、ガルフォードの前で手を組む。
「まず手始めに、このガルフォードによって狼煙をあげてやろう、魔王生誕の狼煙をな!」
呪文を唱え始めるヴァン。
その言葉1つ1つに反応するように、銃身に光の文字が浮かび上がっていく。グレイはそれが
上級魔法は簡易魔法とは違い、長い呪文や特定の文字を書くなど手間こそかかる。しかし破壊力や効果の範囲は簡易魔法の比ではない。下手をすれば物理法則をねじ曲げたり、地形が大きく変わるものもある。
それに気づいたのはグレイだけではなかった。1人の魔族がヴァンに食ってかかった。
「それで何するつもりだ!? 俺達に向かって撃つつもりか!?」
その魔族の一言が周囲に不安をもたらす。だが、それを軽蔑したような眼差しでヴァンはにらんだ。
「そのような愚劣な行いをする私ではない。あなた方は、いわば観客。私が行う宴をその眼で焼き付け、その肌にこびりつかせ、記憶に刻み込む役目を持った大切な人々。その観客を傷つけるようなことなど誰がするものか」
語りかけながら、ヴァンはゆっくりと腕を動かした。そして、近くの山を指さす。
「故に、このガルフォードの威力はあの山で試すとしよう! よく見ておくがいい! 私が作り出したガルフォードの手によって消えるこの光景をな!」
「ああ~もう! あんのクソ馬鹿! とんでもねぇことしてくれやがって!」
事後策を必死に考えながら地面を悔しそうに踏むグレイ。そして、ミリアは首を捻っている。
「会長……あの向こうの山に賊でも見たんですかね?」
「お前は何をすっとぼけたこと言ってるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
この期に及んで、全く状況を理解していないミリアに対してグレイは思い切り叫んだ。
「賊とかそんなん関係ねぇよ! あいつは本気で、自分の力を誇示したいがために本気で! 山をぶっ飛ばそうとしているんだよ!」
砲台を指さし、山へと振り返り、そしてミリアの方へ向き直る。そこには優しげな表情をしているミリアがいた。
「せんぱい……優しいですね」
「はぁ!?」
「本当は会長の真意に気付いていながらも、そうやって嘘をつくことで更に場を盛り上げようとする……あたし、そんな優しさにせんぱいと会長の友情の深さを感じました! そして、そんな優しいせんぱいが大好きです!」
「アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
勘違いここに極まれり、それを打ち消したい思いをありったけ込めてグレイは絶叫した。
「ミリア! お前な! ちっとは俺の話を真面目に聞けや!」
「聞いてますとも! その言葉の裏に隠れた真実の意味まで、しっかりきっちりばっちり聞き取っていますとも!」
「どんだけツンデレなんだよ俺は!」
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