1ー⑪ ヴァンの奴が一番成長することがねぇよ


「せんぱいは……せんぱいは会長に嫉妬してますね!」


「…………………………………………………………………………はぁ!?」


 確かにグレイは、すっとぼけた答えが出てくることを予想していた。しかしこれは度を過ぎていた。全く想像外の答えから、グレイは思わず変な声をあげた。

「だってだって! 会長が正しい行いをしようとしているのに、せんぱいはちっとも嬉しそうじゃない! 本来喜ぶべき場面で喜ばないなんて、嫉妬以外無いじゃないですか!」

「あのなぁミリア……」

 言葉を紡ごうとして、グレイは多少詰まった。


 果たして何といえば彼女は納得するのだろうか。というか納得することなどあるのだろうか。そのような疑問が今更だがグレイの心中を渦巻いていた。

 しかしミリアは逆だ。言葉を止めることなどなく更に継いでいく。

「せんぱい……確かに分かりますよ、その気持ち! 会長はすごくて格好よくて偉大な人で、自分なんかじゃ到底追い付かない、雲上人みたいな存在の人だっていうその気持ち!」

「思ってたまるか! 確かに色んな点で奴に負けてるが、俺はあんなにぶっ壊れちゃいねえ! 少なくとも常識を併せ持っているつもりだ!」

 グレイの魂の叫びにも似た声だが、ミリアはそれを聞き流した。


「でもせんぱい! 人は……人は嫉妬の心に負けちゃいけないんです! 人であるからには、そういう嫌な感情があるのは仕方ないと思います。でもそんなものはぐっと胸の中にしまい込んでおいて、祝う時は祝うべきなんです! 人を呪わば穴2つ、というじゃないですか! そういう嫌な気持ちていうものは、いつか巡り巡って自分のもとに帰ってくるんですから!」

「人を呪わば、て……お前そんなんあるわけ無いだろ」

「いいえ、あります! 情けは人のためならずって言葉もあります。人っていうのは、いいことをしてこそ何かがもらえ、成長していくものなんです! だから悪いことをしても何も成長できないんですよ!」

(だったらヴァンの奴が一番成長することがねえよ)

 この突っ込みは完全に通じないとグレイも判断したため、心の中だけでしておいた。さらに、ミリアは続ける。


「だからせんぱい! 辛いのは分かりますけど……ここは会長を祝福して下さい! 妬ましいっていうのは分かります! 会長は皆の注目を集める、とんでもない魅力を持っていますよ! そしてそんな会長に対して劣等感を持つのは、ありますよ! あたしだってその感情はありますから! でもせんぱいには乗り越えてほしいんです! そういったつまらない感情なんかに流されないで、堂々としていて下さい!」

「ミリア、お前なぁ……」


「せんぱいが……せんぱいがどうしても誰かからの注目が欲しいなら……ずっとあたしが見てますから……」


「っ!?」

うつむき、小声での喋り。普段のミリアと全く違う態度に、グレイは自分の心が動いたのを感じた。


「それとも……あたしじゃ不満ですか……? あたしじゃ駄目なんですか……? 誰から見られてたらいいんですか……?」

「あ、いや……」

そんなことはない、とグレイは言いたかった。だが、言えなかった。

恥ずかしがり、迷い、戸惑う心がそれを邪魔していたからだ。

それでもミリアは、グレイの答えを聞きたかった。

言い淀むものと聞きたがるもの。その瞬間どちらも、お互いのことしか目に入ってはいないし、気づきもしない。

故に2人はすぐには気づかなかった。

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