1ー⑧ せんぱいはピエロ萌えてことですね!

「それでミリア。一体何しに来たんだ?」

「……! そうでした、見ましたよ見たんですよ見てしまったんですよ会長! せんぱい!」

 身を乗り出すようにしてミリアは詰め寄ってくる。その勢いに多少グレイやヴァンも気圧されたのか、身を多少引いた。

「それはさっきも聞いたが……」

「そしたらさっき遮られちゃったんですよ! あたしだって言いたかったですよ!」

 かなりむっとしているのだろう。ミリアの眉間に皺がかなり寄っている。


 それを見てヴァンは微笑した。

「まあまあグレイ。そろそろ言わせてやれ。私も自分の計画がうまく運んでいるか、知りたいのでな」

「そうですよ! というか何であたしさっきから同じこと繰り返してるんですか! 本題に入ろうとして全く入っていないなんて! まるでピエロです、馬鹿みたいです!」

 茹でたタコのように顔を赤くして、ミリアは手足をじたばたさせる。まるでごねている子供だ。

 それを見たヴァンは何かを閃いたのだろう。意地悪そうなニヤニヤ顔に変わった。


「ピエロでも良いではないか。グレイはお前のそんな姿を見て喜んでいるのだぞ」

「ええ⁉ 本当ですか⁉」

「ヴァン! 勝手なこと吹き込んでんじゃねえ!」

 驚くミリア。怒るグレイ。笑うヴァン。様々な感情がこの場に渦巻き始めた。

「あー、ミリア、勘違いするなよ。俺はお前のことを嫌っていないけれども、特別すぎる感情が無いか、と言われたらそういう訳じゃないんだけれども何と言葉にしていいのか難しいんだがつまりは、あー……」

「だったらせんぱいはピエロ萌えてことですね!」

「違うしそんな萌えはありゃしねえ!」

 グレイの言い訳は全く聞いておらず、異次元的な解釈したミリアにグレイは突っ込んだ。


「グレイ! 今の言葉は全国のピエロ萌えの人達に対する大いなる侮辱だ! 訂正撤回を求める!」

「んな奴いねぇことが分かってんだろうがてめえは!」

「ピエロの衣装……ピエロの衣装……」

 ミリアの私物が入っている生徒会のロッカーを素早く漁るが、

「やっぱりありません!」

 予想通りの結果にミリアは落胆する。しかしそれも一瞬、即座に財布を握りしめる。

「ちょっと購買で買ってきます! そしてそれを着てせんぱいの前に参上しますね!」

「あるわけねえだろんなもん! そもそも買う必要ねえ!」

「そうだ、ミリアよ。それぐらい生徒会の予算で卸してやる」

「いい加減にしろやこらぁ!」


 ヴァンの顔に炎と空気を混ぜた簡易魔法をたたき込む。途端に爆風がヴァンの顔を中心に広がるが、先ほどと全く同じ姿で現れた。

 グレイもそれを分かっていたから、目で追わず意識をミリアに向けた。

「とにかく! ミリア、何か言うことあるんだろ⁉ そっちを先に言え!」

 生徒会室のドアノブにまで手を掛けていたミリアはグレイの一声で止まり、振り向いた。

「あ、はい! 今報告します! ってあたしは何でまた同じ事を」

「それはもういいっつうの!」

 さらに何かを言い続けようとするミリアを遮り、痛む頭を片手で抱えながら先を促した。

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