1ー⑦ 手をはなさなけりゃいいんじゃねーの?
グレイが叫んだ刹那、遠くから何かが聞こえてきた。一定の間隔で聞こえてくる音。それは靴が廊下を蹴るときにする音。
そして、その足音の主が誰かも2人には何となくだが予想できていた。この生徒会室に駆け足で迫ってくるある人物が2人には記憶されていたからだ。
足音が止み、ドアノブが音を立てて回り、そこから声が聞こえた。
「せんぱい! 会長! 見ましたよアレ!」
突き飛ばすかのようにしてドアが勢いよく開かれ、壁に激突。そして跳ねて
「ぶべ!」
返ってきたドアが顔にぶつかり、そのまま閉まる。
「………………」
「………………」
しばしの沈黙。ヴァンもグレイも何も言わずただ固まっていた。
「……大丈夫か、ミリア」
あまりにも無音な時間が続いたためか、扉越しにグレイは声をかけた。返事はないように思われたが、ややあって返ってきた。
「だ、大丈夫ですよ! こんなものであたしの志は折れないです!」
「おおーさすがだなー」
多少棒読みであったが、グレイもそれには応じた。
「じゃあせんぱい、会長、今度こそ入らせてもらいますよ! 邪魔しちゃ嫌ですよ!」
「今度は気をつけろよ」
「大丈夫ですよ!」
自信に満ちた声、信じて疑わない気持ちがその言葉からにじみ出ている。
「手で駄目なら足で開ければいいんですから!」
ドアが勢いよく蹴り開かれ、壁に衝突。そして
「今度こぶば!」
彼女が入ろうと一歩踏み出したとき、戻ってきたドアが再びぶつかりそのまま閉まった。
「………………」
「………………」
再び訪れる静寂。
いや、違った。ドア越しに鼻をすする音が聞こえてきた。それと泣き声も。
「く~……どうして……どうして入れないんですか⁉ せんぱい達もしかしていじわるしてませんか⁉」
『どうしてそうなる』
2人の声が完全に重なった。
「だって……だって、だってだって! あたしが入ろうとしてドアを開け放っても、すぐにドアが跳ね返ってきて入れないんですよ⁉ あたしは入りたい! でも跳ね返って入れない! あたしの意志を封じる何かがあるってことじゃないですか! つまりこれはせんぱい方の陰謀ですよ謀略ですよ願望ですよ!」
「……手をはなさなけりゃいいんじゃねえの?」
グレイの突っ込みに3度目の静けさが訪れる。ややあってポンという、恐らく手を軽く叩いたのだろう、間の抜けた音が聞こえてきた。
「せんぱいすごいです! 神です! その発想は全然無かったです!」
「ちっと考えれば分かると思うが……」
「それじゃ今度こそ入らせてもらいますよ!」
と再度ドアが開かれ、今度はきちんと手にドアノブを握りしめたまま、1人の少女が入ってきた。
藍色の長い髪をポニーテールでまとめている。顔立ちは年相応だが鼻の辺りが多少赤くなっている。これは恐らく先ほどの影響だろう。
ヴァルハラント学校の女子の制服を、男子が黒であるのに対し女子は青を基調としている服、きちんと着ていた。模範とさえなれるように、一切の改造やおしゃれも施していない。
彼女の名はミリア。ミリア・ヴァレステイン。この生徒会の書記係風紀係その他もろもろ一切合切担当である。
そして、ヴァンのことを正義の実行者だと思い込んでいる少女でもある。
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