原文(一)

襄陽自圍閉、以至圍解、凡九十日、『卻虜始末』雖具載、錄中所有措置事目、複列如後:



襄陽、圍閉り、以て圍解に至るに、およそ九十日、『きやくりよ始末』、具載すといへども、錄中に所有あらゆる措置の事目、またつらぬるに、後の如し:




一、襄陽府城周圍共九里三百四十一步、城外有羊馬牆、牆外有水濠、複自羊馬牆之外、創設鹿角一重。



一、襄陽府城、周圍、あはせて九里三百四十一步、城外、やうしやう有り、牆外、水濠有り、また、羊馬牆の外り、鹿角一重を創設す。




一、北門城外東西有兩雁翅、抵江稍低數尺、其城外江岸下舟船甚多。恐虜人不測掩襲、遂以兩雁翅城之裏創立木柵、於城下兩堤岸開重濠、設鹿角兩層。又用破車連樓如拒馬、伏壯士守之。城上已有弩手、複用戰船載弩手於江岸下、日夜為備。



一、北門城外、東西、兩雁翅有り、江にあたりてやや、數尺を低くし、其の城外の江岸下、舟船、はなはだ多し。虜人の不測の掩襲を恐れ、遂に兩雁翅城の裏を以て木柵を創立し、城下の兩堤岸に重濠を開き、鹿ろくかく兩層を設く。又、破車をもつて樓を連ぬること拒馬の如くし、壯士を伏して之を守る。城上、すでに弩手有り、また、戰船をもつて弩手を江岸下に載せ、日夜、備へを為す。




一、虜人每來攻城、城上以石炮打之、虜複用打入城上。遂令諸軍用黃泥以牛馬鹿毛攪和為泥炮、如氣球樣、或日曬乾、或用火炙、打於城外。人無不立死。如著地、即碎、不複為虜用。



一、虜人のきたりて攻城するごとに、城上、石炮を以て之を打てば、虜、またもつて城上に打入す。遂に諸軍をして黃泥を用て牛馬鹿の毛を以て攪和して泥炮を為すに、氣球の如きの樣、或ひはにちさいして乾かし(*1)、或ひは火を用て炙り、城外に打たしむ。人、立ちどころに死なざる無し(*2)。し地に著すれば、すなはくだけ、複、虜の用と為らず。




一、舊城上止有炮一十六座。遂措置創增、造大炮及旋風炮共九十八座、於城上並城裏拶城腳安頓。如城腳下安頓者、皆九梢・十梢大炮。



一、もとより城上、ただ、炮一十六座有るのみ。遂に措置して創增し、大炮及び旋風炮を造るに、あはせて九十八座、城上並びに城裏に於ひて城腳にさつして安頓す(*3)。城腳下、安頓する者の如きは、皆、きうせう・十梢の大炮なり。




一、敵樓上防虜人炮石、用木造框子。每個每方丈餘。及用麻索於框上結成網笆、立在敵樓上。遇有炮石打來、即著網而墜。又於敵樓外作皮簾、又用布袋盛糠秕、置敵樓戰柵上。虜炮打入、著皮簾即彈去、著糠袋即住、不損壞樓子。



一、敵樓上、虜人の炮石を防ぐに、木を用ゐてきやうを造る。每個每方、丈餘なり。及び麻索を用ゐて框上にまうを結成し、立てて敵樓上に在り。遇々たまたま、炮石、打來すること有れば、すなはち網にちやくして墜つ。又、敵樓外に於ひてれんを作り、又、布袋を用ゐてかうを盛りて、敵樓の戰柵上に置く(*4)。虜炮、打入するも、皮簾に著すれば、即ち彈去り、糠袋に著すれば、即ち住して、樓子を損壞せず。




一、創造一等箭、名曰蒺藜箭。每遇與虜交戰射入虜陣中、人馬踏之、無不倒者。



一、一等の箭を創造するに、名づけてしつれいせんと曰ふ。每遇、虜と交戰するに虜の陣中に射入し、人馬、之を踏めば、倒れざる者無し。




一、城內居民分四隅、五家結為一甲、互相覺察奸細。仍隨隅分隊、各有所部、多備潛火器具、以防火燭。



一、城內の居民、四隅に分かち、五家、結して一甲と為し、互相に奸細を覺察す。仍りて隅に隨ひて隊を分かち、各々部する所有り、多く潛火の器具を備へ、以て火燭を防ぐ(*5)。



――――――――――



(*1)

日曬


 日に晒す。古い本を天日干しするときにしか使わないかと思ったら、泥団子も曬していいらしい。

 そして再び登場の「氣球」って何のことを指している?



(*2)

無不立死 たちどころにしなざるなし


 知らないと読めない漢字シリーズ。「立」が「たちどころに」で「たちまち、すぐに、ソッコーで」となるのは、割と読みにくいと思う。


「無不」で二重否定。



(*3)

城腳に拶して


 城壁の足下にくっつけて。「拶」は「迫る」の意。



(*4)

戰柵


 戦時に際して設置する防御用の柵。



(*5)

火燭


 火災を引き起こしかねないもの。危険な可燃物。


 名詞としての「燭」の字は「明かり、キャンドル、トーチ」を意味するが、「火燭」の場合にはそちらの意味と、火元になりそうなものという意味の両方がある。

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