原文(二)

公馭軍、紀律甚嚴、賞罰無私。凡遇劫寨獲捷、支犒錢銀略無所靳、每有官兵用命入賊者、即不用次升差。犯令者必從軍法。


與士卒同甘苦。襄陽酒庫日入不下一二千緡、公皆不容酤賣、每出戰遇雪寒、即時給散士卒、以示投醪之意。



公、軍を馭するに、紀律、はなはだ嚴しく、賞罰、私無し。およ遇々たまたまけふさいしてかくせふすれば、錢銀をかうして、ほぼしむ所無く、官兵の命をもつて賊に入る者有るごとに、すなはち次升の差を用ゐず。令を犯す者、必ず軍法に從ふ。


士卒と甘苦を同じくす。襄陽の酒庫、日入一二千緡びんを下らず、公、皆、ばいを容れず、つねに出戰して雪寒にへば、即時に士卒に給散し、以てたうろうの意を示す(*1)。




先是、虜於灘淺處創立鹿角、深處以巨石縋拒馬、阻礙舟船。公令人拔取拒馬百餘、盡毀鹿角、舟行得以無礙。天久不雨、公慮城濠水涸、乃創水車於城東西兩堤岸、踏水入濠、賴以不涸。


又慮民間闕食、凡貧乏下戶、悉以常平米分四隅差官置場賑糴。故圍閉雖久、人無饑民。四外驚移之人入城無所依者、悉令入郡治、給以錢米、病者命醫治療。尋常久晴、多慮火燭。公措置有方、迄圍解、竟無遺漏、居民得以安枕。



是れより先、虜、灘の淺處に於ひて鹿ろくかくを創立し、深處に巨石を以て拒馬をつひし、舟船をがいす。公、人をして拒馬百餘を拔取し、ことごとく鹿角をこはさしむれば、舟行、得てして以てさまたぐる無し。天、久しく雨せず、公、城濠の水の涸れんことをおもんぱかり、すなはち水車を城の東西兩堤岸に創り、水を踏して濠に入るれば、さひはひに以て涸れず。


又、民間の食をかんことを慮り、およそ貧乏の下戶、ことごとく常平米を以て四隅に分かちて官を差し、置場してしんてきす(*2)。故にへい久しといへども、人に饑民無し。四外の驚移の人の、入城してる所無かる者、悉く郡治に入れしめ、給するに錢米を以てし(*3)、病者、に命じて治療せしむ。尋常、久しく晴れ、多く火燭を慮る。公、措置して方有り、つひに圍解するや、つひに遺漏無く、居民、得てして以て安枕す。



――――――――――



(*1)

投醪


 兵卒や民衆と苦楽を共にすること。

 出典は『呂氏春秋』。越王句践が苦難の日々を送っていたころ、酒を川に投げ入れて民とこれを共に飲んだという。



(*2)

常平米


 飢饉に備えて「社倉」に備蓄された米。社倉は、趙萬年とほぼ同時代、朱子学の祖である朱熹が提唱した社会福祉政策の一つとして有名。



(*3)

錢米


 常平米との対比で、官営の売り物となる米、という意味か。このあたりの経済システム、もっとよく調べないといけない。


※筆者の本来の専門はモンゴル時代に入ってからの東シナ海上の交流と交易と戦乱であって南宋ではない

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