二十.一月十六日到二十一日。トレンチを掘るという新展開に至った。
超訳
一月十六日、隨州から戦勝報告が届いた。忠義軍の
「兄貴、隨州といえば、白河口で対談したときに
「実際、かなり強烈な攻撃を受けたようだが、こっちも黙ってやられてばかりはいないってわけだ」
「オレたちも頑張ってますけどね」
「とはいえ、やはり俺たちは急ごしらえの防衛軍なんだよな。今さらになって、地形に関して重要なことに気付いた。タコ金軍が城の南側、特に東南に兵力の層を厚くする理由だ」
「小規模にちょっかい出される場合には西も東もありましたけど、今回は確かに東南ばっかり、倒しても倒しても後ろから湧いてくる感じでしたよね」
「城南の一帯は三国時代、曹操が遣わした大将
「そういやそうだ。八里向こうの漁梁平のあたりまで見渡せますね(*3)」
基本的に、このへんの地形は複雑だ。漢江があって、その両岸が断崖絶壁で、漢江に合する支流があって、そのせいで中洲や灘が多くて、萬山や伏龍山なんかの山があちこちにある。攻城兵器を押して進めるような平野は、七軍教練場方面だけだ。
兄貴はため息交じりだった。
「地図を見て敢勇軍からの情報も得て、しっかり地形を頭に叩き込んだつもりでも、実戦に直面しねぇと、単純なことにも気付かねぇもんだな」
一月五日の攻城の後も、タコ金軍はまた投石機や鵝車や洞子、木牌や草牛や
連中の攻城兵器の類は全部、牛皮で覆われ、それらを運んでくる兵士は
「しかし、まだ濠から遠い。今のうちに城南の防御力を上げておく。
「塹壕って、つまり、溝型の落とし穴を掘るわけですよね」
城壁の南側対岸、濠から離れること四十歩くらいの位置に、濠と平行に塹壕を掘る(*4)。連中の攻城兵器が近付くより先に工事を完了させなきゃいけない。
十七日の夜、しとしと降る雨を隠れ蓑に、ひそかに趙家軍千人が城外に出て塹壕掘削に着工した。
実際に塹壕を掘るのは、千人のうち六百五十人だ。残りは弩兵と
城外に出たオレは、趙家軍随一の暴れん坊、王才たちと一緒にせっせと
「籠城の最初のころ、飯が配給制になって警備のシフトが組まれたときは、うわーマジで戦争だって思ったけど、水に潜って隠れたり山ん中の道なき道を走り回ったり、果ては穴掘りしたり、想像してた以上にサバイバルだわ(*5)」
「確かに。田舎育ちとか傭兵の叩き上げとか旅暮らしとか、それなりにたくましい生い立ちの面子がそろってはいるけど、ガチの籠城って、敵から物資をかっぱらってくるのや土木工事に精を出すのが日常なんだな。今までの常識が吹っ飛んでく」
しかも宵っ張りの仕事ばっかりだ。各々の睡眠時間はシフトで管理してあるけど、無茶を重ねた体が悲鳴を上げつつある。寒い時期で水のそばだから、冷えが原因の体調不良も怖い。
二十一日の夜にも工事をした。今度は二千人を城外に出したうち、工事に当たったのが千五百人、その護衛の弩兵と敢勇軍の叉鎌兵が五百人。
泥だらけの夜間工事はしばらく続きそうだ。一方、日がある間は箭や砲弾の製造に追われている(*6)。箭は一日の戦闘で十万本も使うんだ。
箭は、タコ金軍から飛んできたやつを再利用する。ただ、箭羽が足りない。麻を使って羽の代わりにする。
砲弾も再利用するし、代用の弾を開発してもいる。投石機で飛ばすのは石か鉄の弾が定番だが、襄陽特製砲弾は泥製だ。突き固めた黄土で城壁や建物を造るように、泥の砲弾は十分に硬い。とはいえ、地面に叩き付けられたら砕けるから、敵に再利用される心配がない。
こんなふうに一つひとつ工夫して、この局面を乗り切るしかない。兵力も物資も乏しいからって、アッサリ降参してたまるもんか。
――――――――――
(*1)
忠義軍の李良弼
正史等の記録に発見できず。
隨州は現在の湖北省隋州市で、襄陽市から約百五十キロメートルほど東にある。
(*2)
于禁の七軍の教練場
原文では「江陵七軍大教場」。このまま検索をかけたら『三國志』関連の記事がヒットしたので、これに違いないと思った次第。
于禁は魏の武将で、曹操からの信頼が非常に厚かったが、関羽と対峙した二一九年の樊城の戦いでは、漢江の氾濫によって大軍もろとも水没し、勝手に無力化して関羽に降伏することとなった。
(*3)
八里
約四.五キロメートル。
(*4)
四十歩くらい
約六十二.四メートル。
(*5)
飯が配給制になって
巻末の「まとめ記事」に書かれている。
(*6)
箭や砲弾の製造
巻末の「まとめ記事」に書かれている。まとめ記事も後日訳するので、引用は割愛。
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