原文

十八日、虜以千騎擺列城西、與城上官兵矢石交戰。公在城樓見、虜陣中一人躍馬突出、執旗指呼、引眾直前、意氣驕雄。公索弩親射之、墜馬而死。即令斬首、乃中左目。虜氣奪而退。



十八日、虜、千騎を以て城西にはいれつし、城上官兵と矢石交戰す。公、城樓に有りて見るに、虜の陣中、一人、躍馬して突出し、旗を執りて指呼し、しうを引きてただちにすすみ、意氣驕雄なり。公、弩をもとめてみづから之を射れば、墜馬して死す。すなはち斬首せしむれば、すなはち左目にあたれり。虜、氣奪して退く。




二十日、遣路世忠將敢勇軍五十六人・大軍弩手三十人至雲峰寺前(*1)、燒雲梯三百餘連・造炮大木五十條、殺退看守攻具二百餘人。



二十日、路世忠をつかはし、敢勇軍五十六人・大軍弩手三十人をひきゐて雲峰寺前に至り、雲梯三百餘連・造炮の大木五十條を燒き、防具を看守するの二百餘人を殺退せしむ。




二十一日、虜遣降將王虎來。公喜其歸、欲詢虜中虛實、見其詞色錯愕、疑有他謀、命左右搜之、於肘後得紫袱係銀十五笏。送獄根究、乃是虜都統與之、俾入城縱火為內應。且約以出城相報時、稱白旗子軍為號。公即斬之。


繼而被擄李遵回、乃知前日王虎之來正為虜刺客也。公曰「吾心無愧天地、王虎其如予何」公探知虜欲於二十四日攻城。



二十一日、虜、降將王虎をつかはしてきたらしむ。公、其のかへるを喜び、虜中の虛實をはんと欲するも、其の詞色、さくがくするを見て、他謀有るを疑ひ、左右に命じて之を搜さしむるに、肘後に紫袱を得ること銀十五こつに係る(*2)。送獄して根究すれば、すなはち是れ虜都統、之にあたへ、入城して火をほしひままにして內應を為さしむ(*3)。つ約するに、出城を以て相報ずる時、白旗子軍を稱して號と為さんとす。公、すなはち之を斬る。


繼ぎて被擄の李遵かへり、乃ち前日の王虎の來るは正に虜の刺客と為るを知るなり。公、曰はく、「吾が心、天地にずる無し。王虎、其れ予を如何いかんせん(*4)」公、虜の二十四日に於ひて攻城せんと欲するを探知す。



――――――――――



(*1)

大軍


 別の段にある「官軍」と同じもの、すなわち趙家軍を指すとして解釈した。



(*2)

紫袱を得ること銀十五笏に係る


 袱は、物を包む布、または女性が頭部を覆う布。現代日本の感覚における「袱紗」よりは大きい布の模様。


 笏は、ここでは金銀を数えるときの量詞で、鋳造して薄く細長い形に整えたもの。笏の一般的な意味は、皇帝に謁見するときに手に持つ細長い形の板で、カンニングペーパーを隠すためのもの。金銀の延べ板が笏に似た形であることから量詞として使われる。


 笏の形についてピンとこなければ、「聖徳太子」を画像検索してトップに表示される肖像画が手にしている板が笏である。日本語では「しゃく」と読む。



(*3)

入城して火を縱にして內應を為さしむ


 書き下すと消滅するが、「俾」は使役を導く動詞。


 覚えるまでは読みにくい「縦」の最もメジャーな用法は、副詞「ほしいまま‐に(広範囲に/思うままに)」や動詞「ほしいまま‐にす(まかせる/思うままにふるまう)」であり、時点で接続詞「たと‐ひ(たとえ~だとしても)」である。


 攻城戦でしばしば出てくる「内応」は、城内にいる味方が城門を開き、外にいる包囲軍と呼応すること。



(*4)

予を如何せん


「如何せん(どうしようか)」が目的語を取る場合、語順が「如予何」となる。目的語が長くなると読みにくい。開き直って「~の如きは何ぞや」にするほうが文章がスッキリすることもある。

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