原文

三日未曉、賊眾擺列、步人在前、馬軍在後、四圍無際、鼓噪發喊、一擁而前、仍將木牌及板門・窗槅遮身、搬運攻城器具。


公親諭將士肅靜不得喧嘩。俟其漸近弓弩可及、然後射之。須臾、虜箭如雨、城壁之上有如蝟毛。公身被兩箭、射入城內者不可數計。公令先用火藥箭射燒番賊所搬竹木・草牛並炮木等攻具。煙焰四起、城上弓弩炮石一時並發。


自卯至申、射殺虜賊並中傷者不知其數、悉皆敗走、委棄器甲・弓箭・衣裝等物。公即遣敢死人出城、過濠趕殺、多獲首級、奪取軍器及燒毀雲梯等攻具。即具捷以聞。



三日未曉、賊眾はいれつし、步人、前に在り、馬軍、後に在りて、して際無く、さうはつかむし、一擁してすすみ、りて木牌及び板門・さうかくもつて身を遮り、攻城器具を搬運す。


公、みづから將士を諭し、肅靜にして喧嘩を得ざらしむ。其のやうやく近づき、弓弩及ぶべきをちて、しかる後に之を射る。しゆにして(*1)、虜箭、雨の如く、城壁の上、もうの如き有り(*2)。公、身に兩箭をかうむり、城內に射入する者、數計すべからず(*3)。公、令して、づ火藥箭を用ゐ、番賊搬する所の竹木・草牛並びに炮木等攻具を射燒せしむ。煙焰四起し、城上の弓弩炮石、一時に並發す。


り申に至りて、射殺せる虜賊、並びにあたりて傷つく者、其の數を知らず、ことごとく皆、敗走し、器甲・弓箭・衣裝等物を委棄す。公、すなはち敢死の人をつかはして城をで、過濠してかんさつし、首級を多獲し、軍器を奪取し、及び雲梯等攻具を燒毀せしむ。即ちちを具して以聞す(*4)。




次日、虜氣頓索、移寨遠去。公令四隅打虜箭、及於城外廟宇中得所藏備箭百餘萬、犒將士白金各有差、士氣大振。


又探聞虜賊打城中傷人多渡江而北、遂遣旅世雄・裴顯部弩手乘舟往所渡處、要截射之。


虜人初犯境、公命戍均州統領王宏出兵攻鄧、以為牽製。王宏將所部人由浙川入內鄉、燒虜沿路所積糧草百餘萬、獲千戶杜天師・段守忠等首級。



次日、虜氣、にはかにき、寨を移して遠去す。公、四隅をして虜箭を打し(*5)、及び城外廟宇中に於ひて藏備する所の箭百餘萬を得しめ、將士に白金をねぎらふこと各々おのおの差有り、士氣、大いに振るふ(*6)。


又、虜賊の打城して中傷するの人、多く渡江して北するを探聞し、遂に旅世雄・はいけんを遣はし、弩手を部して乘舟して渡る所の處に往き、むかへて之をせつしやせしむ。


虜人、初め境を犯すや、公、戍均州統領王宏に命じて出兵して鄧を攻め、以て牽製を為さしむ。王宏、部する所の人を將て、せきせんに由りて內鄉に入り、虜が沿路に積む所の糧草百餘萬を燒き、千戶杜天師・段守忠等の首級を獲る。



――――――――――



(*1)

須臾にして


 ここでは「短い時間」の意。

 文脈によっては「ゆったりとしている」ことを表現する場合もある。



(*2)

蝟毛


 ハリネズミの毛。数が多いことの例え。ハリネズミに「蝟」という虫偏の字を当てるセンスはどうなんだ?(けものへんの「猬」もある)



(*3)

不可數計


 思い付いたときに書いておく。「可(べし)」は、字面を見れば「可能」、書き下しの響きを聞けば「義務」のように思えるが、「許可」「当然」「勧誘」「評価」「適当」「推量」「命令」などさまざまなニュアンスを表現するので、頭を柔らかくしてとらえるべし@適当。


 この本文中の「不可數計」は「数え上げることができない」として、可能の意味で読むべきだろう@適当。


 余談ながら、会津弁では終助詞「べ」のニュアンスに苦戦したが、もしかして「べ」はもともと「べし」であり、漢文の「べし」と同じように「頭をやっこくしてとらえたらよがんべぇか@推量」と唐突に閃いて、何だかちょっとわかった気分になった。



(*4)

具捷以聞


「捷ちを具して以聞す」と書き下したが、吏文(役人言葉)風に「しょうぶんす」のままでもいいのかもしれない。


 以聞は「天子に申し上げる」という政治用語。具捷以聞は「戦勝報告を添付して朝廷に上申書を送る」となる。


 なお、この報告を携えた使者が敵の包囲網をかいくぐって朝廷のある臨安府にたどり着けたかどうかは不明。複数ルートで送ったものと推測される。



(*5)

虜箭を打す


 打ってはいない。「打」字は「~する」の意味合いで習慣的に使われる。漢和辞典によると、北宋代の詩人、欧陽脩が「世俗の用法」として多様な「打」の使い方を記録しているらしい。が、正史等のまともな文献ではお目にかかれない。


 ここでは、文脈的に「拾い集める」だろう。



(*6)

白金


 銀や貨幣を指す。ここでは報奨金のこと。

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