原文

十二月一日、虜遣被擄人劉寶於城東隔濠呼城上云「相公欲令人來打話」



十二月一日、虜、りよの人りうほうつかはし、城東に於ひて濠を隔てて城上を呼びて云へらく、「相公、人をしてきたりて打話せしめんと欲す」




明日、主簿向明者複至。公遣撫幹章時可下城應之。隔濠相議、向明所言、乃前日書中之意。章以大義排之而去。



明くる日、主簿向明なる者、また、至る。公、撫幹章時可をつかはし、下城して之にこたへしむ。濠を隔てて相議するに、向明の言ふ所、すなはち前日の書中の意なり。章、大義を以て之を排して去らしむ。




又二日、虜賊數十騎至城西、一人獨前、自稱天使、叫早降、語不遜。公命壯士自鹿角中突出、擒殺之、取其首。腰下得木牌、貫以紅條、番書莫能辨、不知為何等天使也。


至夜、虜賊運竹木・雲梯・鵝車・洞子・炮石・攻具・草牛・土布袋至城下。公密諭四隅兵官將預辦火藥箭・炮石等分布。



又二日、虜賊數十騎、城西に至るや、一人のみすすみ(*1)、自ら天使をしようし、早降せんことを叫ぶに、語、不遜なり。公、壯士に命じて鹿ろくかくり突出し、之をきんさつし、其の首を取らしむ。腰下に得たるの木牌、貫くに紅條を以てし(*2)、番書するもく辨ずるく(*3)、何等いづれの天使たるやを知らざるなり。


夜に至り、虜賊、竹木・うんていしゃどう・炮石・攻具・草牛・土布袋を運びて城下に至る(*4)。公、四隅の兵官に密諭し、べんの火藥せん・炮石等をもつて分布す。



――――――――――



(*1)


 副詞として「ひとり」と訓読すること多いが、ここでその読み方をすると「ひとりひとりすすみ」となってわかりづらいため、「獨」を「のみ」と書き下すことにした。

(河東竹緒氏推奨の読み方。スッキリしました!)



(*2)

木牌


 木製の盾。「貫以紅條」とあるので、赤く染めた紐か縄の持ち手が付いていたのだろうと推測。



(*3)

番書


 異民族の言葉で書かれた文章。契丹文字だろうか、女真文字だろうか。



(*4)

竹木・雲梯・鵝車・洞子・炮石・攻具・草牛・土布袋


 いずれも攻城に使う道具や兵器。ズラッと名前が出ているのを初めて目撃した瞬間のテンションの上がりっぷりは半端なかった。


 超訳文中でも説明したが、改めて。


 竹木。束ねて並べて盾の代わりにしたのでは。日本の戦術だが、戦国時代には「竹束」が用いられていた。襄陽攻めの場合、濠を渡るためのいかだの材料だった可能性もある。また、後日の記録には、投石機を造るための木材として「大竹」が挙げられている。


 雲梯。三國志がモチーフの漫画やゲームでもおなじみのハシゴ車。雲梯を足がかりにすると、城壁に直接攻め込める。


 鵝車、洞子。中に兵士を乗せて運ぶための戦車。鉄や牛革を張り巡らせて防御力を上げた小屋に車輪が付いたもの。鵝車は鵝鳥の形をしているらしいが、画像を発見できなかった。


 炮石。投石機で投擲する砲弾となる石。「炮」は「あぶる」という意味合いだが(料理や漢方薬のレシピに出てくる)、ここでは「砲」と同義で使われている。


 攻具。具体的には何のことやら。長いハシゴとか、門扉をぶち破るための丸太とか?


 草牛。牛の形に草を成形したものらしいが、何のために使うのか、具体的にはわからない。牛をかたどったものといえば、三国時代に諸葛亮が発明した輸送用の「木牛」も、仕組みや用途の詳細は不明。


 土布袋。のうのことだと思われる。積み上げてバリケードにしてを防ぐ、濠を埋めるのに使う、などの用途が考えられる。

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