原文
次日、虜遣主簿向明齎完顏並副統二書來。公不容入城、遣弟內機與譚宣參管伴。公開緘、複有彼此一家之說。擲於地、大罵「虜賊是何相待」
以書答之曰「昨日承專差董萬戶相請欲得會話、雖遠覘風采、一水之隔、不得從容(*1)。承來云、殊不曉所謂。副都統書云『相公乃近侍職位、何為教人以不忠不孝之事』
我聖朝有不共戴天之仇、正以生靈之故、姑守和議。連年以來、金國乃縱容饑民、抄掠我牛馬、驚擾我邊境、遣使賀正、在廷無禮。又詰誚本朝信使、多出榜文、恣加毀辱、此何理也。
棗陽等處小勝小負、兵家之常。然爾士馬死傷、十倍我數。苻堅寇晉、兵非不多、淝水之敗。事蓋可見。相公之誇言兵多、何不鑒此。
我今城高池深、固若金湯。精兵良馬、畢集要地。疆場之臣、但知戮力報國、不知其他。欲遣人複命、緣相公告曉之事、既非所當聞、亦不當遣。姑就來人布答、並令齎來書奉還」答副統止云「回語盡見完顏書中」、向去。
次日、虜、主簿向明を
書を以て之に答へて曰はく、「昨日、董萬戶を專差して相請ひ、會話を得んと欲するを承け、遠く風采を
我が聖朝、共に戴天せざるの仇有るも、正に生靈を以ての故、
我、今、城高く池深かること、
副統に答ふるは、
――――――――――
(*1)
萬戸
官名。金代、軍事・行政組織である「猛安謀克」の中でも軍事を司る。世襲の官で、一万の兵団の長。モンゴル時代の萬戸は地方行政区の長の意味。南宋側の資料に「萬戸」「千戸」が出てきたら、敵軍の役職者だと判断できる。
前日の記録では董張珍の役職は「統領」と書かれていたが、金国内での正確な官職は「萬戸」なのだろう。前日の記録は趙萬年による地の文、今回は趙淳が書いた手紙の写しだから、表記が違う模様。
(*2)
乃 すなわち。
思い付いたので書いておく。いろいろな「すなわち」があるが、今までの体感で使用頻度の高い順に並べると、「則」「即」「乃」「便」「輒」「廼」「就」だろうか。ただし、読むテキストの時代によって使用頻度は変わる。
辞書を引くと、これ以外にも「すなわち」があるが、ごくたまに「為」を「すなわち」と読む程度。その他の字は「すなわち」とは読みにくすぎる。
(*3)
何為 疑問。なんすれぞ(~せんや)。
文中の「教」は使役であり、「対象をして~せしむ」となる。「教」字は書き下し文現れない。
(*4)
爾 二人称。なんじ。
普通の資料で見掛ける「あなた」は基本的に「爾」。現代日本語における「なんじ」は「汝」だが、これは漢文資料では固有名詞として見掛ける。
『襄陽守城録』の地の文では「你」が使われるが、ここは趙淳が書いた手紙の複写なのだろう。「爾」の字が違う上、副詞が頻繁に入り、含みのある疑問文や二重否定が多用されている。明らかに文体が違う。
(*5)
兵非不多 二重否定。
兵、多からざるに非ず。つまり、兵は多い。
(*6)
蓋 けだし。
不確実なことを推測する際に文頭に置く。おそらく、思うに、およそ。
議論を呼び起こす際に文頭に置く。さて、そもそも、ところで。
文脈から判断する。ここでは「可(~すべし)」と一緒に用いられているが、この「可」も可能・義務・推量などの意味を持つので、文脈から判断しなければならない。
(*7)
若 比喩。ごとし。
(*8)
否定+當の二連発 「べし」は、ここでは意志を表す助動詞。
語調が強い。こういう言い切り方、すごく好き。
「絶対テメーらの話には耳を貸さねえ!」という強烈なテレパシーがバシバシ来る。
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