第41話
「優子さんお帰り〜。ねぇねぇ、なんか外、物々しいんだけどパトカーとか停まってて、なんかあったの?」
過去の世界から戻ってくると、過去の世界からやってきてる美佐子が迎えてくれる。ああ、ややこしい。そして純也は、いつものように兄の部屋に篭ったようだ。
「わかんないのよ〜。今までこんなの見たことないわよね。とにかくパトカーがいなくなるまでは外に出ないようにするわ」
「それがいいわね。優子さん、今日の夕飯なんにする?」
「わたしも毎日悩んでるのよ。今日は特にムシムシしていて暑いし。サッパリしてて尚且つ子供たちが喜ぶ料理って、かなり悩むわぁ」
「そうなの?でも、わりとうちの家って夏でも熱いもの食べたりしない?お昼はソーメンとか食べても、夕飯は普通だったりするよね。わたしなんか今は宅配の夕飯サービス利用してるから、それ作るだけなんだけどね」
そうだった。結婚はしたものの、料理が全くできないわたしは、毎日作る夕飯の材料を持って来てくれる、宅食サービスを利用していたのだ。あれは便利だった。献立に頭を悩ます必要もないし、そのうち毎日利用しなくても、料理を覚えることもできた。
離婚して実家に戻り、また母親の作るものを食べていたので、料理を作ることが面倒になったが、これでもわりと何でも作れるのだ。
「あはは。そうなのよね。だから悩んだのは一瞬で、結局いつも通りの夕飯よ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
いつものように夕飯を食べ終わると、9時くらいになると、アリサ、桃子、眞帆の子供たちは消える。その後9時からのドラマを成美と美佐子の3人で観る。サリーは兄の部屋で漫画を読む。
今日は寝る前に、執筆中の〈私たちの交換日記〉という作品を更新した。内容は、高校生のときに親友3人とやっていた交換日記を題材としたものだ。そして0時頃にベッドに入った。
「んじゃあ今日は、高校生のときの親友とやらを見に行くか」
眠りに入るとすぐに、またサリーが現れた。
サリーがタイムマシンで連れて行く過去には、わたしがわたしらしく生きる為のヒントがあると理解できてきたので、おとなしくサリーに従うことにしている。
「ほら、優子の周りには友達がたくさんいるじゃん。優子は高校に入る前に一大決心したんだもんな」
「一大決心?なんだったっけ?」
「中学生までの自分とさよならするって決めただろ。小・中のときは、同級生は優子のことを暗いって決めつけてたからな。変えるに変えられなかっただろ。というより、変わろうと思わなかった。だけど、高校生になれば、今までの自分を知らない人の方が多い。チャンスだと思ったんだ。それは別人格の助けもあったけど、優子自身が決心しただろ」
確かにそうだった。サリーのいう通り、明るい性格になって、友達をたくさん作るチャンスだと思ったのだ。だけど、簡単にいくかどうかは自信がなかった。
「あそこに座ってるのがわたしね。懐かしい〜。良かった。サリーみたいなボーイッシュな感じではないわ、やっぱり。あの頃は聖子ちゃんカットが流行ってたもんね。パーマは禁止だったから、クルクルドライヤーで必死になんとか近づけようとしていたわ」
「性格は不良のくせに、髪型が聖子って滑稽すぎるにも程があるぜ。ツッパリなのか、ぶりっ子なのか普通どっちかだろ」
サリーから言われるまで気がつかなかった。可愛い洋服や小物が好きなのに、制服やカバンは不良というか、ちょっと
制服はブレザーとプリーツのジャンバースカートで、入学前に校則違反のないように、厳重に竹の物差しで1㎜の誤差もないように、膝上10㎝と決められる。背の低いわたしは特に不利だ。足が短い分、スカートの長さが人より短くミニスカートのようになってしまう。
当時は、長いスカートが不良の証しのようになっていて、わたしも憧れた。それに、長めの丈のブレザーに短いスカートだと、スタイルが悪く見えてしまう。俗に言うダサイということだ。
お裁縫というものが、この世の中で一番くらいに大嫌いなわたしなのに、公立の普通科に合格できない可能性が高く、仕方なく家政科を受けたのだ。倍率が低いからだ。
ということもあり、入学して4ヶ月が経った夏休みに、ジャンバースカートを自分で工夫してリフォームした。まず、ウエストの部分を上下切り離し、そこにジャンバースカートと同色の布40㎝を繋げる。
それだけでは、急にスカート丈が長くなり、バレてしまうので、学校内にいる間は校則を守るために、スナップボタンをつけ止めておく。本物の不良になるつもりはないので、登下校のときだけ長くしたいのだ。
ブレザーの方も、両ポケットがまったくなくなるくらいに折り曲げて短くした。それは校則違反には何故かならないのだ。そしてカバンも、教科書が1冊も入らないくらいに潰した。
校則違反とはなんだろうと今考えても良くわからない。
多重人格者優子〜過去から現れた6人のわたし 桜庭みゆき @Koorihime
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