第20話 千秋 くまの子たちとコーヒータイムを楽しむ。
こぐの誕生日だと知る由もない千秋のお祖母ちゃんは、その日のその時、おやつとともにタブレットに触れていた。日課のSNSチェックの最中でおや? と思わず目を見張る。
「今日は知人のお子さんの誕生日です。自分も駆り出されてパーティーの準備を手伝っています」
イシクラさんのSNSには、パーティー会場らしく飾り付けられた古びた和室の写真が上がっていた。ライティングやテーブルコーディネートに気を使ったりなんかして、よくある古びた和室で行われる田舎のパーティーらしい貧乏くささが軽減されたシャレオツでしゃらくさい仕上がりになっている。
孫の手前、皮肉屋の娘二人をたしなめることの多いお祖母ちゃんだがそこはミサコおばさんとヒロコさんのお母さんである。誰もいないそのときは思う存分フンと鼻をならしつつ、次の写真を見た。
そして目を見張った。
「Happy Birthday!」
フルーツの盛られた小ぎれいなケーキを囲んでいる女の子達の写真だった。顔はそれぞれスタンプで隠されていた(本日の主役であるらしいお誕生日を迎えた女の子には特別にティアラのスタンプを添えたりしてまたしゃらくさい)。
イシクラさんはそれで個人情報は護られたと安心したのかもしれないが、お祖母ちゃんに誰を写した写真なのかが丸わかりだった。ティアラのスタンプが添えられた女の子は、くまの着ぐるみみたいなパーカーを着ていたから。
その女の子の両脇に目を転じれば、今日千秋が来ていたのとそっくり同じ服を着た子が映っている。
その写真のキャプションで、以前のバイト先の先輩の娘さんが今日十歳のお誕生日でどうのこうの、近々親になる予定の自分もつい感慨深くなってうんぬんかんぬん……といった長文がだらだら記されていたがそこに目を通す前にミサコおばさんに連絡を入れていた。
バイトを終えたミサコおばさんがバックヤードでスマホをみると、お祖母ちゃんから着信が鬼のように入っており、慌ててかけなおす。そこでイシクラさんのアカウントで投稿されていた写真に千秋とこぐたちが映っているのを知り、数か月ぶりにイシクラさんのブロックを解除したのだった。
バイト仲間たちへの挨拶もそこそこに、車にのりこむと、アドレス帳からはきれいさっぱり消し去ったのに頭の片隅にはしっかり記憶されていて忌々しいイシクラさんの電話番号を入力する。。
バイトを終えたミサコおばさんが何故お化け屋敷近辺にあらわれたわけには、千秋の知らないところでそのような流れがあった為だがそのことを知るのはもう少しあとのことだ。
イシクラさんの長々としたキャプションを読んでいれば、お化け屋敷にマイちゃんがいることについて心の準備ができたかもしれないが、「あのバカめ!」という思いで頭がいっぱいのミサコおばさんにはそんな余裕がなかったのだった。
「この前ミサコの家にいったのも、この話の説明をしたかったんだって」
まりん、はるこ、みふゆの三人が帰ったあと、イシクラさんはパーティー会場になった和室を片付けながらなにやら弁解をする。
「まあ、お前いなくて空ぶりになったけど。おかあさんに説教くらって説明できなかったけど」
「ったりまえじゃん。まともに歓待してもらおうって期待する方がどうかしてるっての。言っとくけどあんたの評判うちで最悪だからね。これ以上下がりようがないんだからね。落ちる所まで落ちてるからね」
「いやまあ……それはしょうがないと思ってるけども」
「けどけどうっさいなあ、さっきから」
マイちゃんと再会した喜びとイシクラさんへの怒りがエネルギーになっているらしく、ミサコおばさんは自分が参加していないパーティー会場を見る間にきれいにしていった。大家さんの約束でマイちゃんは夜までにはきれいに片づけて施錠し、その鍵を返却することになっていたらしい。
その間、こぐはマイちゃんと親子水入らずの会話中だった。
唐突なプレゼントを受け入れるか受け入れざるか、それを二人で語り合っているらしい。
千秋はゴミ袋にゴミをまとめるなど、片付けの手伝いをしながら時折庭で話し合うこぐとマイちゃん親子の様子を眺めた。こぐがマイちゃんに抱き着いておなかのあたりに顔をうずめている様子が見えた。マイちゃんもそんなこぐの頭を撫でる。 親子の話はまとまったらしい。
「……で、なんなの? あんたの修行先にマイちゃんがいたって一回も話してくれたことが無かったじゃない。なんで早くいわなかったの?」
「だーかーら、最近まで知らなかったんだって! お前だって俺のバイト先の話とか訊かなかっただろうが!」
「そっちこそこっちがしんどい時に全然訊かなかったくせに! 大体人のプライバシーを根掘り葉掘り嗅ぎまわるような奴は嫌いだって言ってたのあんたでしょ⁉」
こっち側にいる大人げない大人の話はまとまりそうになかった。千秋の家とは違って、ここには大人げない大人の発言をたしなめてくれる大人がいないので垂れ流し状態だ。
千秋は呆れたが、ポンポン言葉をやりあう様子から察してとりあえず二人が心底嫌いあってお別れしたのではなさそうなところはちょっとだけ安心した。
イシクラさんからは相変わらず胡散臭い匂いがつきまとうけれど、おばあちゃんたちにくどくどねちねち怒られるのを分かっていても、マカロン持参でミサコおばさんにマイちゃんのことを伝えようとしてくれたんだから悪い人ではないんだろうなと思った。でもまあやっぱり、やらかしたことは許してないけど。
ミサコおばさんもその点にだけは感謝したのか、イシクラさんの去り際におばあちゃんのSNSアカウントを教えてあげたのだった。
「えっ、うっそこの人? カレン・ラッセル読んでるのに?」
「うちの母さんはジュディ・バドニッツとケリー・リンクとミュリエル・スパークが好きなんだよ。人を年代で判断するなって」
「……あー、じゃあもっと仲良くしときたかったな」
「その機会、あんた自身がつぶしたんでしょ?」
「それもそうか」
イシクラさんはおばあちゃんのものらしきアカウントをブロックしてから、「じゃあな。元気で」といって車に乗って去っていったのだった。
イシクラさんはそれきり千秋たちの周辺には姿を見せない。ただつい最近、子供が生まれましたというお知らせがSNSで報告されたらしい。
昔のバイト仲間というつながりでイシクラさんのアカウントをフォローしているマイちゃんから教えてもらったミサコおばさんは、大人のケジメとして一応お祝いを送りはしたようだ。
「あんたも結構お人よしなのね」
千秋の母さんがそれを知って呆れていた。それを聞いてミサコおばさんはふんっと鼻をならす。
「一応恩義もあるからね」
お化け屋敷でのサプライズパーティーの数日後の日曜日、改めてコンビニオーナーのおじさんの家に戻ってきたマイちゃんがこぐをつれて千秋の家にやってきた。肩には大量の荷物が入ってるらしい大きいバッグを下げている。
マイちゃんは黒いワンピースではなく、デコルテを強調するデザインのニットを着ていて印象がかなり派手になっていた。あの時はアップにしていた黒髪も、落ち着いた茶色に染めてゆるくウェーブをつけている。最初は派手で奇麗なお姉さんといった様子で、久しぶりに本屋さんごっこをしていた千秋にはなかなか誰かわからない。
しかし大人たちにはその派手なスタイルこそが「マイちゃん」としてしっくりする姿だったようだ。お祖母ちゃんなんか「あらあら~、マイちゃん奇麗になって~。おばちゃんのこと覚えてる?」とさっそく歓迎の様子を見せる。
こぐはその日、くまパーカーを着ていなかった。デニムのスカートにドットのスウェットTシャツを合わせていた。髪はやっぱり外はねのおかっぱだ。くまパーカーじゃないこぐはなんだか別の子に見える。
「どうしたの? 今日はくまじゃないの?」
「……おばあちゃんにクリーニングに出された」
いつもの格好じゃないのが恥ずかしいのか、こぐは前髪を引っ張る。
「マイちゃん、この前とはイメージが全然違うね」
「……万一のことを考えて、以前の自分と全然違う格好をしてたんだってさ」
ふうっとこぐは息を吐いた。まったくバカなんだから、と言いたげな息のつき方だった。それからついでのように付け足した。
「マイがあんたのおばさんに話があるんだって」
ミサコおばさんに話があるはずのマイちゃんは、しかし、おばあちゃんとの挨拶が一通り済むと今度は千秋の母さんとはしゃぎながら抱き合い、その後日曜日なので家にいた千秋の父さんにも「いつも娘がお世話になってます~」と案外如才なく挨拶をしていた。
その後千秋が縁側で本屋をやっている所へやってきて、キャア~! と歓声を上げた。
「これニャー太の実物? 見せて見せて~!」
リクエスト通りマイちゃんにニャー太シリーズの既刊分を手渡すと、思いのほかマイちゃんは大喜びをしていた。
職場の仲間だったことから、マイちゃんは数年前からSNSでイシクラさんのアカウントをフォローしていた。
イシクラさんは、猫の写真がアイコンのとあるアカウントの発言をよくRTしてきた。空だの海だのラテアートだのの写真とまぜこぜに、本や映画の感想がメインのツイート群を「いかにもイシクラくんの仲間くさいな」と、最初は白い目で見ていたけれど、そのうちテレビドラマの展開に文句を言ったり、漫画飯を実際に作ってみた報告などが面白くなってきたので何の気なしにフォローしたのだという。
しばらくしてどうやらその猫アイコンのアカウントがイシクラさんの彼女のものだと気づく。お陰でその人が本屋で働いていることと、なんだかすごく感じの悪い同僚と働く羽目になってしまってうんざりしていることなどを知ることになる。
そのうち猫アイコンのツイートが、「辛い」「しんどい」「やめたい」ばかりになってしまう。心配になったが赤の他人だ、その時はマイちゃんもマイちゃんでこれからの生き方を考えざるを得ない局面に立ち会っており、ネットで知っているだけの人にかまけている余裕がなくなったのだという。
「その時はあたしの働いていたコーヒー屋のマスターが体を悪くしちゃってさあ。ゆくゆくは店をしめるってことになっちゃったんだよね」
ミサコおばさんの離れの台所で、マイちゃんはお湯を沸かしていた。マイちゃんの持ってきた大荷物には、カフェのオーナーが持つような全体的に長細いヤカンやコーヒーをためておくガラスの器(サーバーというらしい)やペーパーフィルターなんかを手早く用意する。
マイちゃんがやってきた理由の一つは、今ははれてカフェオーナーをやっているイシクラさんよりも「上手に淹れられる」というコーヒーをふるまうことにあったようだ。
千秋の母さんや父さん、お祖母ちゃんがいる母屋では緊張するということでミサコおばさんの離れで話をすることになったのである。できればこぐも同席させたいということだったのでこぐも招かれる。こぐもいくなら当然千秋もついてゆく。
本屋さんごっこは後にして、ちゃんと許可を得てからミサコおばさんの古本コレクションを並んで読み始めた。
「いずれその店を継がしてもらえないかな~……なんて甘いことを考えてたんだけど、ちょうどそこの地区が再開発されるってんで店の立ち退きが決まっちゃってさ。うわ~マジか~ってなっちゃって」
ミサコおばさんの人生がどん詰まっていた時、マイちゃんも同じように窮地に立っていたらしい。
とにもかくにも次の生き方を模索しているうちに、猫アイコンの人はすっかり沈黙してしまうが、マイちゃんは自分のことに忙しくて気づかなかった。
熟慮の末、生活の拠点を十年前に無鉄砲に飛び出たっきりの地元に移すことを決断し、それに向けての活動を始めた頃、再び猫アイコンの人が活動を始めているのを知る。地元に帰って調子をとりもどしたとあり、以前のような気楽で砕けたツイートが復活していた。
そのことでやっと猫アイコンの人の存在を思い出したマイちゃんだが、ともあれ彼女の復活を喜ぶ。復活した猫アイコンの人は、同居している姪っ子の落書き漫画の画像を上げていた。他愛ないこどもの落書きなのに、マイちゃんはなぜかそれが異様に気に入った。
「な~んか記憶を揺さぶられるものがあったんだよね~。このムカつくことがあるとすぐ暴力に訴えるこのノリ……。で、あれ、これミサコちゃんじゃない⁉ ってなって」
探せば、小学校時代のまずい給食の思い出や、局地的に流行っていた噂など、猫アイコンの人のツイートにはどうにも地元を共通するとしか思えないものが混じっている。極め付けが「デリカシーのない幼馴染」への悪態だった。これは自分の兄貴のことだ! と、マイちゃんは直観したのだという。
フィルターにコーヒーの粉を入れ、マイちゃんは細長いやかんから円を描くようにして湯を注ぐ。しばらくしてふわっと離れにかぐわしいコーヒーの香りがみちた。あ、いい匂い、なんてミサコおばさんはストレートに感想を口にする。
「で、イシクラくんに訊いたの。あんたの元カノの人ミサコっていうんじゃないって。そしたら、『え、なんで知ってるんですか』って~。すっごいビビッてたよ」
おしゃべりをしながらもマイちゃんは手を停めない。目もコーヒーから離さない。
「ええ~、じゃああたしに直接DMしてくれてもよかったじゃない!」
「そこはそれ、これからよ」
マイちゃんは急にいたずらっぽくつぶやいた(それを聞くなり、こぐがぴくっと体を震わせた)。
コーヒーをカップに注ぎ、マイちゃんはトレイに乗せてミサコおばさんの前に差し出す。コーヒー屋さんで働いていただけあって様になる仕草だった。あんたたちにはこっち、と千秋とこぐの前にカフェオレを置く。。
いただきます、とローテーブルを囲んだ四人は同時にそれぞれの飲み物を口にする。しばらくしてミサコおばさんはゆっくり目を閉じた。口元が自然とほころんでいる。
「美味しい?」
マイちゃんが尋ねるとミサコおばさんは目を閉じたまま深くうなずく。
「……うちのバイト先のとは全然違う……」
「良かった~。安心した~。よかったらこれも食べて食べて」
この前のケーキとは趣のことなる焼き菓子の入ったタッパを取り出して、マイちゃんは勧めた。千秋とこぐはそっちの方が嬉しい。まだコーヒーの味が分からない二人には、マイちゃんのカフェオレは市販のコーヒー牛乳よりは美味しいかな? という程度の区別しか付けられなかった。
「マスターがね、マイには素質があるって店で雇いながら仕込んでくれたんだよ。どこの馬の骨わからないシンママとその子供の拾ってさあ、なかなかできることじゃないと思わない? ていうかドラマみたいじゃない?」
「⁉ ちょ、ちょっと待って」
カップをおいてミサコおばさんは本棚の方へ這って行った。そして手に二冊の本をもって戻ってくる。
まさか……と、いう千秋の予感どおり、ミサコおばさんの手にあった本は『にんぎょ雨』の上下巻だ(ミサコおばさんはわざわざブックオフで自分用の『にんぎょ雨』ほか美亜の著作を集めていたのだ)。
「訊きたかったんだけど、これ書いたのってマイちゃん⁉」
興奮しながらミサコおばさんは尋ねる。千秋も同じように息をひそめた。美亜=マイちゃん説については懐疑的な千秋だったけれど、それでも心のどこかでひょっとしたらという期待は消せない。
息をひそめるミサコおばさんと千秋のドキドキは相当なものだったが、マイちゃんは「うわっ」と叫んで本を手に取るなり、勢いよくケタケタ笑い出した。
「うっそやっだ、なんでわかったの~? ていうか懐かしいんだけどこれ」
固唾をのんでいた二人の緊張にそぐわない軽さで、マイちゃんはあっさり美亜=マイちゃんであることを肯定した。
マイちゃんはページをめくりながら爆笑していた。
「そうそう、こぐれが生まれたばっかの時、もう将来のこととかこれからのこととか不安で不安で……。家出した手前親にも頼れないし、ダメ元で書いてやれって書いてたんだよ、こぐれが寝た時とかに。あのころこういうの流行ってたでしょ? ああいうのは全部嘘だって言われてたけど、こっちは実話だ参ったかって感じで」
ぎゃー、ハズイ。見てらんない、などと大騒ぎしてからマイちゃんは本を閉じた。
「まあお陰様でブームの恩恵にあずかってこうやって本やら映画にしてもらえたわけだけど……。え、ちょっと待って? 何?」
マイちゃんは急にぐずぐず泣き出したミサコおばさんを見て大いに戸惑う。ミサコおばさんはみっともないくらいの本泣きだった。
「ま……マイちゃん。ごめん、あたし謝らなきゃ……っ。そうとも知らずに、あたしmixiの日記でケータイ小説のバッシングしてたわ、あの頃……」
「あはは、いーよいーよそんなの慣れてるよ。あの時日本国中からバッシングされてたんだもん、あたしら。腹立ってエネルギーわいたお陰でふんばれたよ」
「マイちゃん……頑張ってたんだ……。あたしが一人暮らし初めて浮かれてるときに……って思うとつい……っ」
「あー、でもフェイクはまぜてるよ。家出して、子供産んだってとこ以外は嘘だからね。いまだから言うけど。タケルとかレナとか存在しないからね」
こうして『にんぎょ雨』の真実が10年ぶりに明らかにされた。
ケンカ番長のくせに肝心な時には役に立たない一匹オオカミのヤンキー・タケルが虚構の存在であると知り、千秋はほんとしたような少し残念なような気持ちになる(いやでもタケルが実在しないということは、タケルが原因でレナにいじめられたり地元のヤンキーにひどい目に遭わされたって展開も自動的に嘘ということになる。それならやっぱりよかったのだと千秋は再度安堵した)。
とういうことは、こぐのお父さんは誰になるのだろう? 千秋の胸に一瞬謎が宿ったが、大人二人の愁嘆場を前にしても冷静に焼き菓子をポリポリ食べているこぐを見ているとどうでもよくなった。とりあえずタケルがお話の中にしか存在しないとわかったことだけで十分だ。
「まあ、ミサコちゃんが『にんぎょ雨』の話ふってくれて助かったわ。これで話が進めやすくなる」
「?」
ミサコおばさんはティッシュで涙を拭いた後に盛大に鼻をかんだ。一通り涙は収まったらしい。
「あのさ、この『にんぎょ雨』の本が出た時だとか映画になった時だとかのお金がまだ手元にあるんだよ。生活したり学校に通ったりしているうちにちょっとずつ減っていったけどさ、まあ贅沢も控えめにしてまじめに親子二人でつつましく生活しつつ働いていたわけだから、まだそこそこはあるのね」
「……ああ、それで、こっちに帰ってカフェをしようって話になったわけか」
「そういうこと。まあ、家代とか土地代とかリノベーション代とか格安物件で見積もっても全部吹っ飛んじゃうような額だけどね。調べたら地域おこしの助成金とかももらえるみたいだし、先輩特権でイシクラくんのリノベーション人脈紹介してもらえれば、ま、なんとかなるかなって」
とまらない鼻水をかみながら、ミサコおばさんはうんうんと頷いた。
「いいじゃん。それっていいことだよ。カフェができたらあたしも行くよ。なんなら雇ってよ。店員ぐらいならできるし」
「うん。だからそれ」
「はい?」
ずびっと、ミサコおばさんは鼻をかみながらにんまり笑っているマイちゃんを見つめた。
こぐは反対にふうっと息をついて小声でぶつぶつ呟く。その声は千秋にも聞こえるか聞こえないかのボリュームしかなかったが、どうやら「マイの悪い癖が出た」と言ったらしかった。
「あたしねえ、イシクラくんからミサコちゃんが猫アイコンの人だってわかった時に、この計画が頭に浮かんだよね。これ絶対イケる! 面白い! って」
最高に楽しいことを思いついたいたずらっ子のような笑顔を浮かべたマイちゃんは、ミサコおばさんの手を握った。
「ミサコちゃん、あたしとお店やろうよ。本屋さんのついてるカフェ。一緒にやろう!」
「……はい?」
ミサコおばさんは鼻をすすった。
泣いたり鼻をかんだりで、ミサコおばさんの顔は(姪っ子としてはまことに言いにくいながら)正直に言って酷いありさまだったが、千秋の視点からは見るとなんだかそれはプロポーズみたいだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます