アルジャーノンを称えよう
もう三十年も前のことなのに
忘れられない出会いがアルジャーノン、君だった。
君ほど戦い概があるライバルには以来あったことがない。君が好きだったブルーチーズで久しぶりに乾杯するのも悪くない。考えてみても、私が人間としてのプライドをかけてここまで真剣に戦った相手がいただろうか?君は立派だ、敵なからあっぱれなアルジャーノンを称えよう❗
はじめはただ驚いた。一晩のうちに君は小麦粉を一袋空っぽにしたね。台所の漂白剤の容器をかじり、ひっくり返してそこいらじゅうがすごい臭いで、君が漂白されていないか、私は本気で心配した。
君はだんだん大胆になってきたね。夜、寝ている私の上に、仏壇に供えてあった落雁がポタポタと落ちてきたのには驚いた。なげしの上までは運んだものの、そこで力尽きたのだね。賢い君のことだ鼠取りなどに引っ掛かるはずもなく、私もうつ手を失った。一番確実なのはぺつたんこだが、見えるところに置いたのではもちろんダメだ。エサとして米を置いてみたが、もちろん、そんなものにはひっかからない。
私は君に掛けたんだよ。
君が換気せんの下に飛び上がる、と。下からはぺったんこが見えない。そして、、、
チューッという叫びが聞こえたとき、ヤったと私は思わず叫んだ。君が立派だったのはここからだ。君はそれから一言も声をたてなかった。騒げば仲間がやって来て犠牲者が増える。それだけは何としても避けたかったんだね。それでこそ立派なリーダーだ。
一時間もしたころ、換気せんの下にはもがき苦しんで息絶えた君の姿があった。
驚くほどのつやつやした毛並みはリーダーとしての風格充分だった。
のらりくらりと逃げ回るどこかの政治家に、アルジャーノン、君のことを聞かせてやりたい。
エッセイ集 ウインナーが食べられない 不動(いするぎ)薫 @Isurugikaoru1222
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