エッセイ集   ウインナーが食べられない

不動(いするぎ)薫

ウインナーが食べられない

 父の右手は動かない。じゃんけんぽんのグーのまま。戦争に行ったとき、鉄砲の弾が

掌のど真ん中を貫いた。

 固まった指先で目を突かないよう、右手はグーになっている。

 それでも父は、その手で何でも器用にこなした。むしろ誰よりも上手に、物を修理したりした。

 私はその手でよく殴られた。虫の居所が悪いだけて

平手が翔んできた。いつもという訳ではない。風邪をひいたときなどは徹夜で看病してくれた。

 父は私を好きなのか嫌いなのか。私は父を好きなのか嫌いなのか。

 ただその答えを探すためだけに、私は私の人生をついやした。そしてわかったこと。

 父親である前に父も一人の青年であったこと。多感な青年期に人を殴ること、殺すことを教え込まれた。

 戦争が壊したものは山や家だけではない。戦争が奪ったものは命だけではない。心もこわし、奪って行った。

 私も戦争議席者です。そしてまた加害者になっていないだろうか?

 父の右手を思い出すウインナーを私は食べられない。




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