一億回の"はじめまして"
億。
それは、普通と特別の境目を指す言葉。
例えば「億万長者」と呼ばれる人物は、特別の最たるものだろう。国税庁発表の統計年報によると、2014年度の中で年収が一億円を超えた人は、日本の中で17348人いるそうだ。当時の就業者数は6351万人の為、割合としては0.027%――約3704分の1である。
3704人に1人。「これしかいない」と見るか「こんなにいる」と見るかは自由だが、その資格を得られる人物が極一部に限られていることは、誰もが分かるはずだ。
また、サラリーマンの生涯収入は2億と言われている。無論、定年まできっちり働き続け、昇給が出て、ボーナスも支給されなければ到達しない。それから、生活費や税金で取られる為、貯金だけをする生活をしたところで、億に到達するかは知れない。
この通り、大半の人々はその存在を見ることはない。だからこそ、億に触れられる(可能性を持つ)「宝くじ」は夢の象徴として、大衆に親しまれている。
億は「
5フ〇ーザの演算を通して、ようやく四文字の一致となる『シェイナスラデ』を導くことに成功した。
ただし、この先となる五文字一致は更に険しいものとなる。四文字一致の確率が約1356000分の1だったの対し、五文字一致は、約1億8757万分の1である。分母は約138倍に膨れ上がった。単純計算でいけば、実現には約354フ〇ーザの演算回数が必要になる。
(分母が純粋に83倍にならないのは、組み合わせの数も加味されている為。7文字中4文字を取る組み合わせは35通りあるが、5文字を取る組み合わせは21通りしかない)
1フ〇ーザあたり、20.75秒で実行できたことは前項で確認済みだ。この結果を基に演算時間を計算してみると、7345.5秒(2時間2分25秒500)となる。
最後の切り札であるMACROを用いても、「億」の演算には火曜サスペンス劇場を見るだけの時間がかかるのか。
本来の目的地たる「兆」の領域はこの更に上にあるのだが。
……
……
……上ばかり見ても仕方がない。
とりあえず、出来ることからやってみよう。
とりあえずは「一億」からだ。
一億に決めた理由は、珍しくも存在する。すべてのきっかけとなった、あのサイトに記載されていたのだ――「一億回の繰り返しの果てに『Nice to meet you』がタイプされるかもしれない」と。
膨大な試行の結果が「はじめまして」だなんて、中々洒落ているではないか。
幸いなことに、そう時間をかけずに実現できるのだ。
530000回の試行を、わずかに189回繰り返すようにPCに命令すればよい。
私の役割はただ、ボタンをポチッと押し、延々と湧き出てくる文字の泉を尻目に、一時間強ばかし放っておくだけで良いのだ。
その先に、どのような結果が待ち構えているかは、まるで予想が出来ない。
億。
それは、普通と特別の境目を指す言葉。
しがない一般人の私からすれば、「億」という言葉は宝くじか、世界の人口、それか宇宙の歴史で少し
よもや、表計算ソフトによって対面することになろうだなんて――夢にすら。
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