人の持つ可能性の限界



 猿は古代に伝わる術「ググル」を用いて、知識の神より結合の力「concatenate」を授かった。

 ちなみに「concatenate」の正式な読み方は結局分からなかった――そもそも、この言葉自体が、遥か昔、異星からやってきた神々が持ち込んだものであり、人間には発音できないものらしい。「コンキャティネイト」説が有力らしいが、「コンケートネート」「コンカティネイト」「カンキャーティネイト」と、候補は様々あった。

 発音については、話そうと思えばいくらでも話せる――が、そんなことをする時間はないし、主旨が変わってしまうし、そもそもこの余白はそれを書くには狭すぎる。


 とにかく、これで「シェイクスピア」と合致するまで、検索キーを叩き続ければよいだけになった。

 分身の数を今までの10倍――1000行に増やし、再度、27兆分の1の確率に挑戦してみることにした。

 1回目、見つからず。セルの幅を調整、文字列を出力しなおす。

 2回目、見つからず。セルの幅を調整、文字列を出力しなおす。

 3回目、見つからず。セルの幅を調整、文字列を出力しなおす。

 4回目、見つからず。セルの幅を調整、文字列を出力しなおす。

 5回目、見つからず。セルの幅を調整、文字列を出力しなおす。

 6回目、見つからず。セルの幅を調整、文字列を出力しなおす。

 7回目、見つからず。セルの幅を調整、文字列を出力しなおす。

 8回目、見つからず。セルの幅を調整、文字列を出力しなおす。 

 9回目、見つからず。セルの幅を調整、文字列を出力しなおす。

 10回目、見つからず。セルの幅を調整、文字列を出力しなおす。 

  

 ……。

 ……。

 ……気が、おかしくなりそうだ。

 手抜きと思われるかもしれないが、これが、1000行を10回――10000行分試してみた結果なのだ。1回ごとにセル幅を調整していた、あの頃(と言っても、二週間も経っていないが)とは格が違う。

 あの頃は、休憩なしで1秒ずつセルの幅を調節し続けたとしても、10000行出すのに、2時間46分40秒かかっていた――それが、わずか3分弱で終わるようになった。超大作映画の本編が、今や映画予告に成り下がったのだ。しかも、目視確認による「うっかりミス」も起こることもない。

 少年漫画もびっくりなインフレ具合のはずだ。これも、現代というに進んだ社会だからこそ出来ること。その方向性自体は間違っていないはずだ。


 しかし――現に3分弱の内に、私の精神は疲弊している。何故か。それは、何というか……

 ただ、単純に、つまらない。少なくとも、『無限の猿定理』を見た当時の、私の思っていたモノとは違う。

 ひたすらに「検索」を押し続け、そして、「見つかりませんでした」のポップアップを見つめ続け、セルを縮めたり、広げたりし続ける……

 相手は27兆分の1の確率だ。1000行を1回単位にしてみたところで、270億回押下する必要がある。1回当たり1秒で実行できたとしても、約86万年が、1000分の1になったところで、860年だ。私の血族が末代まで「検索」ボタンを押下し続ければ、いずれかは叶うだろうから、幾ばくかはなレベルとなったと言える。

 しかし、単純に、つまらない。あなたは、ご両親やご先祖に『我が一族は「検索」ボタンを押す、ただそれだけの為に産まれてきた』と言われて、納得出来るだろうか。私だったら、家出する。泣いて縋りついてでも、他の家にあたる。


 なら、1回あたり10000行にすればいいのでは。ほう、それなら86年で済む。一生かければ、何とかなるかも。

 納得いかなければ、100000行だ。検索量的に、間違いなく1回あたり1秒では済まなくなるが――仮に超スペックのPCで演算したとして、1秒で出たとしよう。それでも8.6年、8年7か月と6日かかる(1ヶ月を30日と換算)。学生時代を棒に振るくらいの覚悟が必要だ。


 ならば、E〇CELの限界行数までやってみるか。

 E〇cel2003(.xls)だと65,536行なので、先述の100000行に達しない。正確な数値にはしないが、まあ10数年かかるだろう。

 E〇cel2007(.xlsx)だと1,048,576行となるので、更に約10倍に出来る。界王拳もびっくりであるが、そうした場合、100万行の文字列すら1秒で検索できる、超々スペックのPCで演算すれば、8.6年の10分の1だから、0.86年――1年を365日とすれば、316.9日となるので、316日と21時間20分で完了する。

 つまり、正月からスパコンを用いて、休まず「検索」を連打しまくれば、どんなにくじ運が悪くても、その年の11月の中旬くらいには終わる。

 北京原人から、先祖から子孫までとなり、ヒトの一生、学生時代、そして遂に一年かからずにまでなった。

 これをチートと呼ばずして何というのだろう、とても喜ばしいことだ!!

 文明の利器、万歳!! PC様万々歳だ!!


 さて、問おう。

 そこまでして、結果が「シェイクスピア」七文字だった――あなたは納得できるだろうか。


……だから私は、気がおかしくなりそうになる。


(後記)

「100万行でも駄目なら、別の列にコピペすればいいじゃん」とも思ったが、一列の時点で字数は、乱数で出たカタカナ700万文字+それらを結合したカタカナ700万文字の合計1400万文字であり、普通のPCに収まるファイル容量の気がしない。

 これを数倍、数十倍とやったら……フリーズしたっきり、ぴくりとも動かなくなりそうだ。試す気はさらさらないが。

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