さる一つの問題


 果たして不安は現実のものとなった。

 100行に渡って出力されたカタカナ文字に対して、私は目視確認に苦しめられることになったのだ。

 理由は簡単である――「シェイクスピア」で文字列検索をかけることが出来ないから。

 今の状態は、無作為に出力されたカタカナ1文字が、7セル分あるだけだ。決して1セルに7文字がある訳ではない。よって「シェイクスピア」では検索出来ず、「シ」から一文字ずつ検索する必要が出てくる。

 すなわち手順はこうだ。「ctrl」+「F」キーを同時に押して、検索画面を出す。そこに「シ」をあてはめ「検索」キーを押す。ここで検索対象がなければ、次の100行に希望を託すことになる。見つかった場合でも、それが1文字目――J列に存在しなければ駄目だ。それでも100行分出力されるので、83分の1の確率で「シ」が出てくることは、そう珍しいことではない。

 ここで気を付けるべきことは、検索結果は2文字目以降、つまり、K列~P列の「シ」にも反応してしまうということだ。各行に対して、検索が引っかかるので早とちりしてはならない。もし慌てたりして、うっかり操作を誤ってしまえば、再びrand関数が実行され、全てのセルが再び無作為に選出、やり直しとなってしまう。

 ともかく慎重に操作し、1文字目のセルが「シ」となる行を見つけたら、2文字目以降を確認する。条件に合うセルは数える程しか出ないので、目視で確認する。大体は2文字目――83の2乗、6889分の1の確率で躓くので、次の100行に希望を託す――


 ハッキリ言って無謀な計画だ。2文字合っていた『ブネトオバ』なんかは、初回だからって張り切って、検索も使わずに100行分の文字列について、何文字合致したかを目視で確認していた。その時は確認に5分もかかった。

 次回からは検索機能を用いるようにしたので、(手順をしくじらなければ)1回当たり1分弱で見終わるが、先頭の2文字「シェ」を出すことさえ、約69回の実行が必要なのだ。69分もあれば、短い映画なら終わってしまうだろう。

 このザマではとても、27兆分の1を引き当てることはない――猿は世界的作家の名前を知らぬまま、永遠に電子の姿で彷徨うのだ。

 10倍の1000行に分身すれば、確かに繰り返しの回数は少なくなるだろう。ただし、そうした場合、「シ」も10倍の確率で出現するようになる。J列にあるかないかをあくせく検索するのは、非常にインテリっぽくない。

 そんなのは、数学の組み合わせの問題を、公式を使わずに絵を描いて全パターン網羅して解こうとするのと一緒だ。たかだか1問5点の問題に、10分や20分も試験時間を使う学生が居るとしたら、相当のモノ好きである。その挙句に見落としで不正解でしたでは、笑い話にもならない。

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