モンキーマジック
仙術を手にした猿――孫悟空。
孫悟空と言えば、意のままにどこまでも伸びる「
彼は巨大化や変身などの多彩な術を用いることが出来るが、その中の一つに「
自身の体毛を少し引き抜いて噛み砕き、ふうっと息を吹きつける事で、体毛が子猿――即ち自分自身になるというもので、ジャパニーズ=ニンジャが利用した奥義「分身」に類似点が見受けられる。
さて、新世代に生きる不死身の猿は、身外身の真似事が出来る。
元祖と比べて、痛い思いをして毛を引きちぎる必要はない。しかも、わずか数秒のうちに、数十匹から数百匹も作り出せる。
無論、分身がさぼるなんてことはない。本体と同じだけの力を持っている。
仮想空間に生きる猿が編み出した、その方法とは――
コピー&ペースト。
これにより、七文字のカタカナを入力する猿を、いくらでも増やすことが出来る。
世界のシェイクスピアも、超自然の仙術には抗えまい。
私は、C1からP1までのセルを範囲選択し、「ctrl」と「c」キーを同時に押下――コピーした。
そして、2行目へとカーソルを移動させると、「ctrl」と「v」キーを同時に押下――ペーストする。
『ヘヂマゲキヲラ』『グリドプヨトツ』という未知のカタカナ語が、2行分に渡って生成される。
無論、こんな程度で「シェイクスピア」が出るとは思わない。なんせ確率は約27兆分の1なのだ。こちらも技を出し惜しみしている暇はない。
2行目を範囲選択すると、今度は選択セルの右下にある黒い正方形にカーソルを合わせる。カーソルが黒い十字になるのを確認した私は、にいっと不敵に笑った。
これぞ、現代の――
そんな決め台詞を心の中で唱えながら、黒い十字をクリックし、そのまま下へとドラッグしていく。
ちょうど、100行目になったのを確認し、そっと人差し指を左ボタンから離すと、100行に渡って、無作為なカタカナと乱数が生成された。
その内の一つ『ブネイトオバア』は、3文字目の「イ」と7文字目の「ア」の2か所が「シェイクスピア」と一致している。流石に100回も試行すれば、この程度の一致は出てくるということか……
ともかく、これでセルの幅調整に時間をかける必要はなくなった。あとは「シェイクスピア」の文字が出るまで、分身を繰り返せばよいのだ――
段取りが見えた、ように思えた。
画面に生成された数多の文字列を前に、胸をなで下ろそうとした私だったが、ここで一つ、重大な問題点に気付いたのだ。
これ――文字列を確認するのにも、えらく時間がかかるんじゃねえか?
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