ドラゴン・ストライカー

氷月アイス

プロローグ~日常と異常~

足下にはたくさんの死体。

手には赤く染まった■■が握られていた。

辺りは赤いカーペットが敷かれている様だ。

鉄臭いな……。

………あぁ、そっか。

ここにある死体は僕が…。

……早く■■の所に行かなくちゃ。

僕の足は自然と■■のいる方へと向かって動いた。

こんなにも多くの命を……でも、仕方のないこと…だよな。

見つけた。

よかったよ。

■■が無事で。

……?

どうしてそんな目で僕を見てるの。

ねぇ、なんで?

なんでなんでなんでナンデデナンデナンデ……。

……そっか、君は■■じゃないんだね。

だったら、君も消さなくちゃだね。

ゆっくりと■■を振り上げた。

「い、いや。やめてよ……■■■。」

少女は涙を流しながら震える声でそう言った。

しかし、青年にその声は届かなかった。

振り上げられた■■は少女めがけて勢いよく振り下ろされた。


……ピ………ピッ…ピピ……ピピピッピピッピピピッ……カチッ

「んっ....。」

もう、こんな時間か....

カーテンの隙間からこぼれる光に照らされながら起き上がった。

....また、あの夢か。

ここ数日同じ夢ばかりを見る。

血に染まった世界、そこで誰かを殺す。

そんな夢だ。

はぁ、気分は最悪だけど学校行かなくちゃ。

重い体を起こし、カーテンを開けた。

日の光を浴びながら、制服に着替えた。

制服には睦月むつき 龍人りゅうとと書かれた刺繍ししゅうが入っている。

これが僕の名前だ。

個人的には龍という字をテストの時に書くのが面倒に感じていたりする。

途中、鏡が視界に入り覗き込むと、そこにはまだ眠そうな顔がこちらを見ていた。

荷物を整え、自宅を出られる準備を終えリビングに向かった。

リビングには朝食のみ置かれていた。

両親は数年前に行方不明になった。

後を追うように兄さんもいなくなった。

だから今は、幼なじみが食事を用意してくれている。

僕一人だと適当なものしか食べないからだそうだ。

さっさと朝食を食べ、学校に向かおう。

家を出るとき誰もいないと分かっていってもこう言ってしまう。

「行ってきます」と。

玄関を開け、学校へ向かい始めた。

いつもと変わらない日々を感じながら。


外には幼なじみの、彩月さつき 結花ゆかがいた。

彼女とはもう17年の付き合いだ。

家族がいなくなってからは家事なども手伝ってもらってる。

「あ、龍人おはよう」

「おはよう、結花」

結花の側にはいつも見ている白い車が止まっていた。

車の窓が開き、

「やぁ、おはよう龍人くん。今日も学校まで乗っていくかい?」

と言われた。

声をかけてくれたのは結花のお兄さんでもある夕夜ゆうやさんだ。

「いつもありがとうございます。今日もお言葉に甘えさせてもらいます」

僕にとって夕夜さんは本当の兄とかわりなかった。

幼い頃から夕夜さんは僕と結花と兄の四人で遊んでいた。

結花と同じく夕夜さんも家族がいなくなってからは兄の代わり色々なことを教えてくれた。

だから、血が繋がっていなくても本当の兄とかわりなかった。

僕と結花は車に乗り学校へ向かった。

「龍人くん最近はどうだい?」

「楽しいですよ。皆もいるので。それに今日は……」

「あぁ、そうだったね」

「え、龍人今日何かあったっけ?」

結花は自分だけ知らないことに驚いていた。

「んー、秘密かな」

「なんでよー」

そんな他愛もない会話をしているうちに学校についた。

僕たちは正門で下ろしてもらい感謝をした。

「それじゃあ、俺は職員会議があるからここで。またあとでな」

「はい、頑張って下さい」

「お兄ちゃんも頑張ってねー」

「別に頑張ることなんてないんだけどな」

そう言いながら夕夜さんは裏にある駐車場へと走っていった。

夕夜さんは僕の学校の教師であり、僕のクラスの担任だ。

「おはよう。龍人、結花。」

「龍人君に結花さん、おはようございます」

「ゲン君、サラちゃんおはよう」

ゲン君とサラちゃんは兄妹なのだが性格は対極的でゲン君はたくさんの人をまとめることが得意な活発な性格でサラちゃんは礼儀正しくおしとやかな性格なのだ。

ゲン君の本名は夢咲ゆめさき みなとでサラちゃんは夢咲 沙良さらだ。

「龍人は昨日のドラマ見たか?」

「見たよ。まさかあの人だったとはね」

「あ、私まだ見てない。言わないでー

結花は僕の口を手で押さえ話させまいと止めてきた。

「なら、一緒に今日見ませんか?」

「そうしよう、サラちゃん」

そんな話をしながら教室へと足を運んで行った。


キーンコーンカーンコーン

HR《ホームルーム》開始のベルが鳴った。

「お前ら、早く席に座れ―」

教室に夕夜先生が着席を呼び掛けながら入ってきた。

「さてと、全員いるな。まぁ、今日は特に連絡事項とかないが、問題だけは起こさないようにな。それじゃ、HRはおしまいだ。」

出席だけ確認し、HRは終わった。

一限までは時間があるため、僕の席に三人が話に来た。

「相変わらず、結花のお兄さんモテモテだな。」

「確かに女子生徒に人気あるよね」

「お兄ちゃんイケメンだからねー」

「先生はお優しいですから」

四人は女子生徒に囲まれている夕夜のほうを見ながら、苦笑していた。

「龍人ー、頼みがあるんだがいいか」

「あ、わかりました」

龍人がいなくなった席には結花が座り、

「龍人とお兄ちゃんが何か隠してるみたいなんだけど知らない?」

ゲンとサラに問いかけた。

「私は知りませんね」

「俺もだ」

「そっか、一体何なんだろう…」

結花は今朝のことが気になるようで落ち着きがなかった。

そんな結花を見ながらは二人は微笑んでいた。


ふと気がつくと、既に最後の授業もまとめに入っていた。

あー、もう一日が終わるのか。

キーンコーンカーンコーン

授業終了の鐘がなった。

「なぁ、結花この後少し買い物に付き合ってくれないかな」

「龍人が買い物なんて珍しいね。いいよ」

「ありがとう」

「ゲン、サラ先に帰るな」

「ゲンくん、サラちゃんじゃあねー」

「おう、二人ともまたな」

「龍人君、結花さん、さようなら」

龍人と結花は近くにあるショッピングモールに向かった。

残ったゲンとサラは夕夜ともにどこかへ行った。


「ねぇ、龍人何を買いに来たの?」

「今は秘密かな。それと申し訳ないんだけどここにはないみたいだからもう一ヶ所いってみても良いかな?」

結花は腕時計へと視線を下げ

「……まだ大丈夫、良いよ」

笑顔で答えてくれた。

「じゃあ、行こっか 」

結花の手を握り、歩き始めた。

少したった頃、

「ねぇ、こっちにお店なんてもうなかったと思うんだけど………」

少し不安そうに僕の顔を見ながらそういってきた

「……もう着くよ」

視線の先には小さな建物があった。

「ここって何のお店なの?」

「中に入れば分かるよ」

結花の手を引きながら中に入った。

部屋は暗く、周りはよく見えない。

「ねぇ、何か怖いよ。もう出ようよ。」

結花の表情こそ見えないが手は震えている。

相当怖いのだろう。

「大丈夫だよ。だって…」

部屋にあるスイッチに手を伸ばしそれを押した。

部屋が明るくなると同時に

パン パン パン

三つの爆発音とともに

「「「結花(さん)お誕生日おめでとう(ございます)」」」

と言われた。

突然のことに結花は驚き固まっていた。

結花はすぐに僕の方を見てきた。

はじめは驚いていたが次第に笑顔へと変わった。

「ねぇ、龍人これって……」

「そうだよ。結花の誕生日会だよ」

「……ありがとう。龍人、お兄ちゃん、ゲンくん、さらちゃん。」

「僕たちだけじゃなくてクラスの皆も手伝ってくれたんだ。ただ今日は僕たちだけでやるんだけどね」

僕が話しているとき結花は部屋を見回していた。

満足したのかある程度でやめ僕たちの方を見てきた。

「ねぇ、実は今日凄く寂しかったんだよ。龍人達だけじゃなくてクラスの子達も言ってくれなかったから忘れられてるのかと思ってたんだよ。」

曇った瞳で結花はそう言ってきた。

「そ、それに関しては悪いと思ってるよ。でもサプライズの形にするためにはこうするしかなかったんだよ」

僕はあわてて結花に答えた。

皆も気まずそうに目線をそらしていた。

「…………」

ほんのわずか沈黙が流れた。

その沈黙をやぶったのは結花だった。

「まぁ、今回のことに関しては私のためでもあったからもう良いや。もしまた、同じことをするときはもう少しやり方を変えてね」

曇りが消え明るい瞳で言ってくれた。

明るい雰囲気に戻ってきた。

「と、とりあえず全部忘れて今を楽しもう。」

僕のその掛け声誕生日会がはじまった。


持ってきたものを各々で渡し終え、ほぼお開きの状態になった。

全員で満足そうに話していると不意に結花が小声で

「龍人、少し良いかな。話があるんだけど」

と言われ僕は

「大丈夫だよ」

と返答し結花と外へ出た。

表情こそ見えないが後ろ姿だけで何かを決意しているのがわかった。

「それで話ってなにかな?」

「………えっとね、龍人にとって私って何か

な?」

結花の目は僕を見ている真っ直ぐと。

「………え?僕にとっての結花か……とっても大事な人かな。家族がいなくなってから孤独に感じてた僕を……僕に暖かさをくれたとっても大事なひとかな。」

僕も結花の目を見た真っ直ぐに。

結花はほんのわずかに動揺してる。

「じゃあ、私のことは………」

僕は何となく言いたいことがわかった。

いや、分かっていたのかもしれない。

だからこそ、結花がその言葉を口にする前に

「僕は結花のことを異性として好きだよ」

そういった。

僅かな沈黙の後、結花から涙がこぼれ始めた。

「え、ちょ、と、とりあえず落ち着いて。」

どうしていいかわからず慌てていると、

「ふふ、ごめんね。大丈夫だよ。これは嬉しかったから。」

結花は涙をぬぐい、笑顔で言った。

離れていた二人の距離は徐々に縮まる。

そして、月明かりに照らされた二つの影が、一つの影となった。

二人の表情はとても幸せそうで、明るいものだった。


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