7・2 

「失礼、します?」


 入口をノックしても返事がないので、私は入った。

 生徒会室には、たっくさんの人が列を作っていた。がやがやとしゃべりながら順番を待っている。聞こえてくる話は、全部、恋愛のトラブル。文芸部で相談できなくなったから、こっちに来てるんだ。


 私はとりあえず列に並んだ。


宇井戸原ういとはらではないか」


 するとカウンターの奥から、かいちょーが声をかけてきた。受付の眼鏡くんに耳打ちする。


「入ってこい。こっちも話をしたいと思っていたところだ」


 横っちょの通り道を教えてもらって、そこに入る。

 前も思ったけど生徒会室ってお父さんみたい。固そうなファイルが並んでる。あれで殴ったら品近は怒るだろうな。痛てえだろって。


 かいちょーの机に到着すると、折りたたみの椅子をだしてもらった。私はそこに座る。


「連日大盛況だ。文芸部のありがたみが、今さらながら実感されるな」


 かいちょーは、散らばっているプリントとかを寄せて、机のうえに飛び乗った。


「えっ、それって」

「文芸部の活動停止を解除するという意味だ。そうでもしないと生徒会業務が立ちゆかないからな」

「かいちょぉー!」


 私はありったけの声で叫んだ。

 かいちょーは変な顔してる。うるさかったかな。


「ただ問題なのは、楽羽のやる気がないということだ」

「ぶちょーを例外にできないんですか……?」

「あの様子では不可能だ」


 ――失礼します――


 眼鏡くんがお茶を手にして近づいてきた。黙々と2つのコップを置くと、すぐにお盆を抱えて離れていった。


「宇井戸原、他人の心配をしている場合か」


 かいちょーは私を見た。「お前も無記名ではいられなくなるのだぞ」


「……そ、そうですね」


 言われるまで気づかなかった。私もやばいよね。どーしよ。


「社もああなってしまっては、記名できない」

「え、へえ?」


 なんで品近の名前がでてくるの。そういう話してなかったじゃん。


「社を記名するために文芸部にいたのではなかったのか?」

「ちっ……違いますっ!! 何言ってるんですか!? 品近はちっさい重度シスコンで友だちもいないんですからね! しっつれいしちゃいますよっ、こんな私でも選ぶ権利くらいあります!!」

「はは、あまり強がるな」


 嘘がばれるぞ、とかいちょーは意地悪そうに笑う。

 じわじわ頬が熱くなってきた。酷い。嘘なんか言ってないし。かいちょーがからかうせいだし。


「話を戻すが、無記名でいたいのなら生徒会に来ればいい。相談業務の経験者は大歓迎だ。こっちの首が回らんのでな」


 考えておいてくれ、とかいちょーはデスクを飛び降り、眼鏡くんのところに行った。

 かいちょーは生徒会の仕事を続けている。茜さんに言われてやってたって話だけど。品近と茜さんがああなっても投げだしてない。ぶちょーだけじゃなくて、私のことだって心配してる。


 すごいよね。

 私って何やってんだろ。自分じゃなんにもできないし、ぶちょーも助けられないし……。

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