逆説その7 語りえない物語

 天使の銅像は、悲しそうに私を見つめていた。


 身体のあちこちが欠けていて、羽の部分は飛べなさそうになってる。その目尻から頬をつたってあごへと落ちていく、水滴の汚れがついていた。目のくまはたぶんこけかな。守衛さんはこの子をきれいにしないみたい。


 ――変な制服。


 着ている制服に手を伸ばす。スリットの入ったスカートに、ゆったりした襟。下着が見えちゃうっていうか見せてる。お嬢様学校だったのにね。品近しなちかは私のは全然見なかったけど。


 あかねさんが戻ってきてから、だいぶ時間がたった。


 茜さんは消えちゃう前と同じように、お家に帰って、学校に行って、を繰り返している。所属する教室は1年星組。品近と同じ。ずっと勉強してなかったから1年生からなんだって。


 最初はすごい騒ぎだった。お母さんが泣きながら私に電話してきたくらい。秘密の美人生徒が復活した、文芸部の七不思議だ、なんて話もあった。茜さんはきれいだしね。


 で、あの日から、品近はまるで別人になった。


 文芸部に顔をださなくなった。登下校も授業中も、ずーっと茜さんと一緒。お家でもべったりだと思う。品近って名字で関係に気づく人もいたけれど、校則が変わったから、2人については口出ししてない。それにあんな仲良さそうな姿を見せつけられたら何も言えないよ。


 品近は茜さんを探すために花園学園に来た。茜さんは品近と一緒になるために行方不明にまでなった。


 そして2人は望みどおりに再会して一緒になった。

 分かってた。最初から私じゃ勝てなかったって、それくらい。

 けど祝福する気にはなれないんだ。姉弟だからじゃないよ。あの日のことがあったから。


 ――姉ちゃんと再会できるまで待ってくれ。会ってけりをつけたら返事をする――


 品近、いつになったら返事してくれるの。ずっと待ってるんだよ、私。

 それともあの約束は、嘘だったの。

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