第10話 選択の時

 僕はヘイジ。異世界の勇者で、めでたく魔王を倒した。だけど…



 僕らはノアのもとに駆け寄った。「王女殿下!しっかりしてください!!」「王女様!!」「ノアさん!!」口々に声をかける。「…申し訳ありません。油断してしまいました…。でも、魔王が倒せて、よかった…。」苦しそうな顔でノアは言った。「ノア、今治せる薬を…」そういって力を使おうとする僕をノアは止めた。「いいの。私はもう助からない。だから、今はただ、私を…」ノアの言葉を遮り、僕はノアを抱きしめる。「ありがとう、ヘイジ君。大好き…だよ…。」ノアはそう囁いた。そしてノアは僕の腕の中で、その温もりを無くしていった。


 冷たくなったノアを抱き、僕は泣いた。


 やがて涙も枯れた頃。世界樹に後光が射す。そして、女神が降臨した。女神は慈しむようノアを撫でながら、僕に告げた。

「2つ選択肢を与えます。1つ、元の世界に戻ること。2つ、元の世界への帰還を諦め、ノアを復活させること。」



 そして僕は、ノアを復活させることを選んだ。




 しばらくして、僕らは王都へ戻った。王都は、兵士はおろか魔王軍もいなくなり、廃墟となっていた。プレタはその後仲間を探しに旅立ち、ソノットも自分の家に帰っていった。

 余談だが、ソノット曰く魔王が治癒魔法で崩壊したのは魔王が不死身アンデッドだったかららしい。不死身アンデッドは通常の攻撃で傷を負わない代わりに、治癒魔法でダメージを受けるらしい。理を超える存在のはずなのになぜかそこだけは超えられなかったのだろう…いやなんでだよ。

 そしてその夜、僕とノアは王城のベランダに居た。

「それにしても本当に良かったの?」ふとノアは僕に訊く。

「何のこと?」

「えっと、その…。君が元の世界に帰ることを諦めて、私を復活させることを選んだこと…。」

「ああ、そのことか。」ノアの気恥ずかしそうな言葉でやっと気づいた。「うん。これで良い。むしろ、これは僕が望んだこと。


 たとえこの世界が、誰かが作った幻だとしても、僕が生きた現代だってそうかもしれないことは変わらない。だから僕は信じたい方を、愛したい方を選ぶ。例え、それが愚かな選択だったとしても。」

「…そっか。…全く、最初の頃はあんなに貧弱そうだったのに、どんどん成長しちゃって。まさに勇者だよ、ほんと…」

「ありがとう。まあ魔王は倒せたけど、人間としてはまだまだだよ…。」照れながらそういう。

「まだ成長する気?」ノアは呆れ返る。

「いや、実際まだまだだよ。魔王を倒した時だって、ノアさんを失いかけたし。ノアさんを守るために、もっと強くならないと…。」

「あーはいはい頼もしい限りですね。」ノアは棒読みのようにそういって、

「…でも、私のこと、置いてけぼりにしたら許さないんだから。」と照れつつ膨れる。その表情に思わず愛しさがこみ上げる。

「大丈夫、どんなに成長しても僕はノアさんの傍にいるから。」微笑みながらそういうとノアはさらに顔を赤くした。



「ずっと気になってたことがある。」

 今度は僕からノアに訊く。

「なに?」

「ここは僕のいた世界と違うはずなのに、なぜ僕は普通に君と会話できるのかな。」

「それ、私よりソノットの方が詳しいんじゃない?」ノアは首を傾げる。

「いや、なんとなくだけど、ノアさんの方が知ってる気がするから。だってノアさんは、。」




「…そっか、さっきからなんとなくそんな気はしていたけど、君は大体、分かっていたんだね。」ノアは困ったように微笑んだ。



「私とお父様は、もともと、こことも、あなたとも違う世界の人間だった。その世界も魔王がいて、魔族と人間が戦争していた。だけど、魔族側に未来を読む占い師がついて、状況が変わった。魔族は全世界を征服し、人間は魔族に虐げられ続けた。そして私が生まれた時、私は将来、勇者と共に魔王を倒すことをその占い師に予言され、危険因子を排除しようと、狙われたらしいの。そこで、お父様は、魔王側にいた内通者と共に、私を魔王の手の届かない所に匿うことにした。そのために内通者が創ったのがこの世界なの。そして私はここで、お父様に育てられた。ただ、お父様に何かが起こった時に備え、代役も創られた。それがソノットよ。




 そして少し前、占い師は私と共に魔王を倒す勇者が君であることを知った。そこで、内通者は君が殺される前に、同じようにこの世界に匿うことにした。だけど、幼い頃からここにいて、生まれた世界よりこの世界との縁が強い私と違い、君は元いた世界との縁が強かった。だからプレタと魔王を追加で創造し、4人で幾多の試練を乗り越えさせ、この世界と君を強く結びつけようとした。しかし魔王が暴走してしまい、また占い師も君の居場所を掴み、殺そうとした。それで止む無く君とこの世界を強制的に繋げた。今回起こったことはこれが全て。」


 ノアは全てを語り、謝罪した。

「ごめんなさい。いままで黙っていて。」

「いいよ、大丈夫。それより、急いで世界を渡る方法を探さないと。」

「え?何で?」

「だって僕、。」

「…え?」

 ノアは呆然としていた。

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夢幻の勇者 あおろま @kinhoshi223

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