第9話 チートにはチートを

 僕はヘイジ。異世界の勇者だ。そして今、女神に呼び出されている。

「あなたが気を失った後、私は時間の流れを可能な限り遅くしています。しかしそれでも異世界の時間は30分経過し、勇者一行は劣勢になっています。このままでは勇者一行が全滅し、異世界にあるあなたの体も魔王に破壊されかねません。手遅れになる前に、今一度イマジニアにお戻りください。」女神はそういった。どうやら女神の力も万能ではないらしい。

「分かった。しかし僕が行くだけでは多分状況を変えられない。だから、僕の世界から物を持ち込めないか?」僕はダメ元で女神に打診した。

「残念ながらそれはできません…。しかし、その代わりに、あなたに力を与えましょう。」女神は静かにそういった。予想外の反応だ。

「力?」僕は思わず聞き返す。

「はい、具体的には、無からあなたが想像した物を自由に創造できる力です。」女神はそう答えた。それってこっちから物を持ってくるよりすごいことじゃなかろうか…。

「ただし何でも創れるわけではありません。まず、想像できるもののサイズはおよそ、あなたの世界での2m四方に収まるものになります。巨大なものは創れません。また、一度想像して創造したものはその記憶を保管しておけるため、何個でも創れます。この記憶は5種類まで保持でき、5種類を超えた場合はその記憶のうち1種類分の記憶を消し、必要があります。消した記憶も想像しなおせば戻せますが、消してから5分経たないと想像できません。」女神は力について説明する。凄まじい能力だ…。

「それ、相当強い力なんじゃ…。普通の人間が使えるのかよ…。」呆然と僕は呟く。

「ええ、無から物を作る力は本来神やそれに類する存在しか持ち得ません。そのためこの力を酷使すればあなたと異世界の結びつきが強くなり、あなたの世界に帰ることが困難になります。それでもお使いになりますか?」女神は真剣に問う。僕は決意した。



「…あの世界を、ノアを救えるなら、それでいい。」


「…わかりました。」女神は静かに言い、僕に力をくれた。




「ヘイジ君!!」

 目覚めるとノアがこちらを覗き込んでいた。凍っていたはずの体が、とても暖かい。

「良かった…。」ノアは呟き、起き上がった僕を抱きしめた。


「ハッハッハッハッハッ、しぶとい奴め。まだ生きていたか」魔王は再び嘲う。改めて広間を見渡す。プレタはノアを守るように盾で守っていたが、盾も足元も凍らされ、動けなくなっていた。ソノットも足元を凍らされ、こちらも身動きができないようだ。女神に聞かされた通り、状況は劣勢。でも僕には女神からもらった力がある。そして剣も無事だ。剣をとり、魔王に接近。光弾を避けながらもらった力を使い、ガスマスクを想像する。想像は形となり、顔全体を覆うガスマスクが顕現した。想像通りの物が出来たことに満足しながら、同じものを4つ作り、光弾を避けながらノアとプレタ、ソノットに渡す。使い方を説明すると、皆不審に思いながら被ってくれた。魔王も何をやっているのか分からぬ様子で、

「どうした貴様ら。なぜ同じ仮面を被る?我を愚弄するつもりか」と怪訝そうに言った。

「…いいや違うさ。これは魔王狩りの下準備。



 目には目を、歯には歯を、チートには、チートを!!」

 そういいながら再び魔王に接近しつつ、力を使う。光弾を避けながら、隙を見て創造した筒のピンを引き抜き地面に投げつける。筒は魔王の近くの地面に転がり、大量の煙幕を吐き出した。

「煙幕とは小賢し…」そういいかけた魔王は異変に気付く。

「なんだこれは…目が…目が…」魔王は呻く。そう、ただの煙幕ではなく催涙ガスの入った煙幕だ。煙幕が途切れぬように何個も創造しては投げつける。ガスマスクのおかげで僕らは全員動ける。ソノットも煙幕の中にうっすらと見える影を頼りに弓を放つ。今まで弾き返されていた弓がやっと魔王に届く。さらに僕は能力を吸い込む小瓶を想像しダメ元で力を行使。手の中には想像通りの代物が創造されていた。空想の物まで創造できるとは…。この力の強力さを感じながら僕は煙幕の中の魔王に接近。小瓶の蓋を開け、その口を魔王に押し当てた。

「な、なにを…!」魔王は驚く。小瓶は淡い光を放ち、魔王が持つ魔法攻撃を無効化する能力を吸い取った。さらに魔力を吸い取る一升瓶を想像して顕現させ、蓋を取り、その口も魔王に押し当てた。一升瓶は激しい光を放ち魔王の魔力を根こそぎ吸い取った。煙幕から離脱し

「魔王の魔力と能力を吸い取った!これで魔王への攻撃が通るぞ!!」勝ち誇ったようにそういった。

「馬鹿な!!」魔王は目を抑えながら杖を持ち、光弾を放とうとするが杖は光りもしなかった。ソノットは矢に魔力を込めて放つ。黄色い一筋の光が魔王を貫き、魔王は驚いた表情を浮かべた。

「皆さん、反撃の好機です!」そういってノアは魔導書を開き、詠唱を始める。辺りは慈愛の光に包まれ、傷が癒え、氷が溶けていく。その中で魔王だけ、苦悶の表情を浮かべ、崩れていった。

「おのれ…道連れに…してやる…」魔王はそういいながら灰になり…


 消える瞬間、黒い稲妻を放つ。


 黒い稲妻は、プレタを避け、ノアを直撃。


 ノアの叫びが広場に響いた。

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