紺碧に染めて

 白い天井が二人を見下していた。


 殺したかった人に殺されかけた者と。

 死にたかった癖に死ねなかった者を。


 ただただ静かに見下ろし、見下している。哀れで醜い生き物達だと。


「殺そうとしたな」

「ごめんなさい」


 そう。それはかつての約束。


「死ねませんでした」

「お前は詰めが甘いんだ」


 最低最悪は需要と供給のはずだった。


「ねぇ」

「なに」

「約束、しましょう」

「何を」

「今度は私があなたを生かします」

「どうやって」

「私があなたの目になります」


 死にたがりの毒は殺したがりの目を焼いた。


「……お情けかよ」

「いえ、決してそんなものでは」


 死にたがりは残りの沢山の毒で、顔が醜く爛れた。


「私、あなたを愛していますから」

「…………馬鹿言うんじゃねぇよ」


 もう彼と彼女に残された道は一つしかない。緩慢で憐憫に満ちた最期までの長い道のりを、共に過ごす。

 贅沢で怠惰な、絶望。


 真紅はそっと紺碧に染まっていく。


「愛してくださいね」

「知らねぇよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死にたい私と殺したいあなた 空唄 結。 @kara_uta_musubi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る