あなたのことは好きでも付き合えません!
「俺と、付き合ってください!」
平凡中の平凡な生活をおくる
太郎君に呼び出された場所は人気のない校舎の裏側。彩乃は本当によかったと安心した。もし、女生徒、もしくは女教師にこの場面を目撃されてしまえば、今までの透明色だった存在感に黒くにじんだ色が付け足されてしまう。そうなれば、透明色に戻ることは二度とない。
「か、顔をあげてください」
しまった、と彩乃は思った。どうして顔を上げろなんて言ってしまったのだろう。
すぐさま自分の言葉を訂正しようと思ったがもう手遅れだった。
目の前に太郎君の顔、ブレザー越しでもわかるほどよい筋肉。この世のものとは思えない存在が、自分を照れた瞳で見つめているのだ。
心臓がもたねえと彩乃は確信した。今にでも鼻にたまっているだろう血を出したい。
いや、その前に口を開かないと、声を出さないといけない。
彩乃は胸を押さえてはっきりと言った。
「ごめんなさい!」
「え……」
太郎君の瞳が徐々に曇っていく。
ち、違うんです! と彩乃は続けた。
彩乃は太郎君に恋愛感情がないから断ったわけでもないし、すきな人がいるわけでもないし、自分と太郎君は釣り合わないなんてネガティブな考えはしていない。ただ、
「そんな、あなたと恋人になるってことは一緒にいる時間が増えるってことですよね? そんなの無理ですよ!」
太郎君はガーンと効果音が出るような気持ちにされる。
というより、自分が振られる未来を想像しなかったから、よけいダメージが大きかったのだ。
「彩乃の気持ちは分かったから――」
「私死んじゃいます!」
「……え」
太郎君の目が点になる。
彩乃は太郎君の表情がころころと変わる貴重な瞬間を拝みもせず続けた。
「太郎君みたいな格好良くて、優しくって、格好いい人が隣にいるなんて、心臓は絶対になりやまないし鼻血は絶対出ると思うし……私心臓発作もしくは出血多量で死んじゃいますよ!」
あ、そういうことか。俺の事好きなんだと納得した太郎君の瞳に光が戻る。
「そんなの、慣れだよ」
太郎君はそう言って彩乃の腰に手を回した。
震えていた彩乃は一瞬の間で石像と化した。
「毎日こうやってハグしてれば、出るものも、止まるものもなくなるよ」
彩乃からの返事がない。それでも、伝わってくる彩乃の鼓動はいつものリズムではなかった。
太郎君はその鼓動を感じては自分の告白は成功したのだと安心した。
――――自分のブレザーが赤く染まっていることに気づくまでは。
ワタシはいつも夢の中 Erin @Little_Angel
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