第14話蒼い空と黒い雲(5)

明るい。そして暑い真昼間だ。ぼくは川に入って何かを探している。どうやら魚を探しているようだ。魚影が見え、それに飛びかかる。上手く捕まえられた。それを自慢しようと、例の女の子に駆け寄る。しかし魚はヌルッと手から逃げ出し、慌てたぼくはお尻から水に倒れてしまった。女の子はおかしくて笑い転げているようだ。今なら顔が見える。顔の水を拭ってくれ。しかし僕の手は思うように動いてくれない。何せ夢だし。


結局、顔は見えないまま終わっちまった。時計を見ると家を出る時間10分前……しまった

どうやら翠も寝坊したらしい。運良く俺も翠も朝練はない日だったから助かったが、飯を食べてる時間はなさそうだ。母さんが居ないとこうも寝坊するとは…俺は翠を起こし、戸棚に転がっていたカロリーメイツと牛乳を含みながら着替え、物の見事に10分で家を出た。(翠はもう少し身だしなみに気を使ってもいいと思うのだが、いつも散髪で手入れしやすい髪にしてもらってるらしい)

「この時間に出れたら余裕だよね」

「あぁ…なんとかな…」

俺はまだ寝ぼけている頭をなんとか起こそうと頑張っているが、なかなか睡魔が去っていかない。

「おーはよっ!」

と、いきなり後ろから俺の頭に体重をかけて押さえつけられた。びっくりするなぁ、目が覚めたわ!

「沙夜姉おはよー!」

「おはよー翠ちゃん。あれ蒼くん、朝のご挨拶は?」

「…おはようございます…」

「はいよくできまちたーパチパチー」

何で朝から幼児扱いなんだよ!そして翠も拍手するな!

「相変わらず家を出るタイミングが同じだな」

「不思議だねぇ、合わせてるわけじゃないんだけど」

合わせてるとしか思えないやい!

「あ、ちーちゃん!おはよー」

なぬ

「あ、おはよう翠ちゃん。お兄さんもおはようございます。あと…えっと…」

「秋月沙夜だよ。この前夜に会った子だよね?」

「あれ?2人面識あったの?」

「面識って程じゃないんだけど、この前蒼くんがこの子をおんぶして歩いているところに出くわして」

…何故それを言ってしまう…

「おんぶ?」

ほらー!翠の目がジトーっとこっちを見てるぅ。

「蒼さん?なんであなたがちーちゃんをおんぶすることになるわけですか?」

「え、いや〜その…なんででしょうねぇ?」

「最近私はおんぶしてくれないのにちーちゃんはおんぶするんだ」

え、そこなの?

「翠ちゃん、違うの。この前の夜家まで送ってもらう時に私靴擦れしちゃって、それを聞いたお兄さんがおんぶしてくれたってことだから。翠ちゃんが心配することなんてないよ?」

「そうなのあお兄?」

俺は必死に首を縦に振る。

「ふーん、まあいいや。そういえばちーちゃん、TTOの曲どうだった?」

「あ、聴いたよ。私も結構好きかなぁ―」

ふう、なんとか助かった。帰って竹刀でしばかれないといいが。

「ごめんね蒼くん。言わない方が良かった?」

「べ、べつに何もいかがわしいことはしてないので困りもしませんが?」

「そうですかー、なら良かった。でも翠ちゃんもちゃんと気にかけてあげてね?」

そりゃあ気にかけてるさ、兄貴なんだから。問題は沙夜姉の件だ。


教室に着くと、隼人がこんなことを言い出した。(忘れている方に説明するが、三上隼人。2話に登場している俺の親友だ)

「お前いつからハーレムを形成してんだ?」

「なんのことだ」

「すっとぼけんなよお前ー。上から見えてたぞ?妹ちゃんと秋月先輩と、あともう1人は知らんけどめっちゃ可愛かったなぁ。ってそうじゃなくて、美少女3人とお前1人で仲良く登校とは…羨ましい」

翠を美少女に加えてくれてるのは兄としては鼻が高いが、そんなに良いもんじゃねえ、って言っても通じないだろうなぁ…このパターンは。

「ただの妹とその友達、ひとつ上の幼なじみ。一緒に登校してもおかしくないだろ」

「いやおかしいね、そんな境遇に生まれてること自体が俺らと不公平だ!」

そりゃひどくねえか!?

「でだ、蒼。その幼なじみのことでひとつ教えておきたいことがある」

いきなり声を落として話し始めた。

「お前の部活の部長いるだろ?少し背の低い」

「あ、ああ…部長がどうかしたのか?」

「この前どうやら秋月先輩に振られたらしくてな。それをガラの悪い連中と話してたのを聞いちゃったんだよ」

「それは知ってるぞ?沙夜姉本人からも聞いたし」

「だろうな、本題はその先だ」

まだ何か情報があるのか?こいつもつくづく探偵みたいな目鼻をしてる。


「その部長さん自ら、秋月先輩をストーカーしているらしい」

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茜色の夢は君と 茶々 錦 @nisiki1125

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