第13話蒼い空と黒い雲(4)

告白…ねぇ〜。前々から沙夜姉が同級生はもちろん後輩から(女子も含め)告られてどれも断ってきたのは知っているが、あの出雲部長がねぇ〜。成績優秀で堅物、だが顔は整っているので一部女子達のファンもいるそうだ。唯一の欠点が背が低い方に位置すること。空手ではそれを生かして下段の攻撃を得意としているわけだが、背の高い選手とあたると上からの攻撃がほとんどで防ぐのは難しい。それでいつも準決勝辺りで負けてしまう。とまあ、長所も短所も持ち合わせてはいる部長が沙夜姉に告白したことは、俺としては驚きだった。

「それで、沙夜姉はなんて返事したの?」

今まで尽く断ってきた理由はわからないが、沙夜姉のタイプが部長ではないと思う。というかそうであって欲しい。

「まあ無難に、私には好きな人がいるからお断りさせてもらいますって答えたよ」

「なるほど…断ったのか…ん?」

「あ…待って今のなし」

「沙夜姉好きな人いんのか!?」

「いや、その、違くて…ね?」

「誰誰誰?3年生?」

「い、言わないよ!恥ずかしいもん!」

「どんな人かヒントだけ、な?」

「えー…、んー、後輩に優しくて、家族思いで、強くて…」

なんだその女受け良さそうな奴!

「私のことを心から心配してくれる人」

うおう…俺はそいつに勝てそうにないんだが。恐らくそいつも沙夜姉のことが好きなんだろうな…

あれ、なんで俺は勝つとか勝たないとか考えてんだ?

「いい人だな、そいつ」

「え…ああ、うん、とってもいい人だよ」

そう言った沙夜姉の顔はとても恥ずかしそうにしていた。謎の虚しさが胸を掠めたが気にしないでおいた。

「それで、断ったなら何も悩むこともないんじゃないか?」

「ううん、問題はその後でね―」

どうやら、出雲部長はその沙夜姉の想い人を言い当ててしまったらしい。沙夜姉は驚いて顔に表情が出してしまい、それを見た部長は一瞬怖い顔をして出て行ったらしい。(いつも顔は怖いんだが)それでその想い人になにかするんじゃないかと懸念していたというわけだ。あの堅物部長がそんなことをするわけないと思ったが、あの人が中学生の時に暴力事件を起こしかけたことを噂で聞いたのを思い出した。

「つまり、沙夜姉としては何かが起こる前に何とかしたいと」

「そういうこと。最低でも危害を加えさせるようなことはさせたくない」

なるほどな。俺らの思い過ごしで終わるのが一番いいのだが、1度問題を起こしている部長がきれいさっぱり更生したかというと確かではない。部活では信頼を得ている人だからあまりそう思いたくはないのだが。

「わかった、俺も探りを入れてみるよ」

「蒼くんはだめ!」

「え?」

「あ…その、大会も近いしここで部長と喧嘩したり亀裂が入るのは良くないし…」

「そこら辺は上手くやるよ」

「でも…」

「なに今更遠慮してんのさ。沙夜姉が困ってたら手助けしたいし、恋も応援するからさ」

「…うん…」

「じゃ、今日はもう戻るね」

気づいたら時計は11時をまわっていた。

「ありがとね、蒼くん」

「おう」


無事無傷でベランダ飛びを成功させ、部屋に戻ると翠がいた。

「また沙夜姉のとこに飛び移ったの?」

「のわっ!なんで俺の部屋にいるの!?」

「ちょっと聞きたいことがあるからノックしたら全く反応がないから寝てるのかと思って覗いたら窓が開けっ放しじゃん。だから待ってた」

「そ、そうか…とは言っても真っ暗な中で待たなくても…心臓止まるかと思った」

「で、聞きたいことってのがさ、さっきちーちゃんからメールがあったの」

「千夏ちゃんから?」

別に二人がメールのやり取りをするのはおかしいことではないのだが、わざわざ伝えに来たということは何かあったのだろうか。

「明日から私があお兄と一緒に帰ってあげてって来たんだけど」

なぜに!?まさか俺が帰り道に例の件でボコされるのを防ごうってか?

「でも毎日あお兄は沙夜姉と帰ってるから、私の入る隙間なんてないんだよねぇ〜って言ったら沙夜姉も一緒にって。理由は聞かないでって言われたんだけど、あお兄何か知らない?」

「い、いや、心当たりはないな」

「…そう。ならいいんだけど」

「他の友達と帰るならそっちを優先していいからな?」

「りょーかい。…やっぱりあお兄何か隠してるね?」

ギクリ…さすが俺の妹。見抜かれてるのか?…

「なんにもないよ。俺がお前に隠し事なんて出来るわけないだろ?」

「いやいや、いっぱいしてたでしょうよ。小さい頃から隠し事してる時ほど隠し事出来ないと強調するお兄さん?」

「そ…そうかもしれないけど、今回は何も無いよ?ほんとだよ?」

「ふーん、ま、いいや。じゃあ明日から放課後連絡するから。ケータイの電源つけ忘れないでね。じゃあおやすみー」

と言って部屋を出ていった。…あれは隠し事バレてるな…最後まで聞いてこないのは翠の優しさと言ったところか。

とりあえず俺もその日は何も考えずに寝ることにした。千夏ちゃんには明日意図を聞いてみよう。

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