ひとりかくれんぼをしたらセガールが降りてきた

ひとりかくれんぼをしたらセガールが降りてきた

ひとりかくれんぼなんてするんじゃあなかった、とＹ氏は奥歯をがたがたと鳴らしながら、クローゼットの中で後悔するのであった。

何故こんな状況にY氏が置かれているのか？話は数時間前にさかのぼる。

Ｙ氏は就活も終わって暇を持て余していたところ、大学の友人が教えてくれたのが「ひとりかくれんぼ」であった。このひとりかくれんぼとは、簡単に言えば降霊術の一種であり、幽霊によって引き起きる怪奇現象のスリルを楽しむというものである。

「良い暇つぶしにはなりそうだ。」と、かくしてＹ氏はひとりかくれんぼを実行したのであった。

夜も更けた頃、一軒家に一人暮らしのＹ氏はひとりかくれんぼをするための方法を詳しく調べていた。

ひとりかくれんぼはメジャーなオカルトらしく、その手のサイトがすぐに見つかる。

Ｙ氏はサイトのページをスクロールして、手順を確認していく。

実行手順

1.まずぬいぐるみに名前をつける。

2.深夜の2時42分になったら、ぬいぐるみに向って呪文を唱える。

3.風呂場に行き、ぬいぐるみを水の張った風呂桶に入れる。

4.部屋に戻り、家中の明かりを消して、テレビをつける。

5.目をつぶり、大きな声で10数えたら、用意した刃物を持って風呂場に行く。

6.ぬいぐるみのところへ戻り、呪文を唱えてぬいぐるみを刺す。

7.『次は○○(ぬいぐるみ)が鬼』と唱えながら、ぬいぐるみをそのまま置く。

8.置いたらすぐに逃げて隠れる

手順を読み終えたＹ氏は想像以上の手順の多さに、やる気を少々削がれたのであった。

「結構めんどくさいな。終わり方はぬいぐるみに塩水を掛けて呪文を唱えればいい、と...ん？」

※注意

・家の外に出ない

・電気(明かり)は必ず消す

・隠れてる時は静かに

・同居人がいると、同居人に危害が及ぶという噂もあり

「ふ～ん。こんな注意点があるのか。」

Ｙ氏は一通りのやり方を頭に入れると、あまり深く考えずにひとりかくれんぼの準備を始めた。

まず道具を揃えた。

Ｙ氏は手元にあった中身の綿を抜いたクマのぬいぐるみに、自身の爪と生米を詰めて赤い糸で止める。

そしてカップに塩水を入れると、片手にサバイバルナイフ、小脇にぬいぐるみを抱えてお風呂場に向かう。

お風呂場に向かう途中で、「そういえば、このぬいぐるみに名前をつけなくちゃいけなかったんだっけ。よし、こいつの名前はスティーブンにしよう。」

などと一人でつぶやきながら、Ｙ氏はお風呂場に続く長い廊下を歩いた。

そして水を張ったお風呂にぬいぐるみを入れると、幽霊を呼び出すための呪文を唱える。

そうしてお風呂場を出て、家中の照明を消す。照明を消す途中に居間のテレビを点けると、ただただ砂嵐しか写していなかった。

Ｙ氏は家中の明かりを消した後、目をつぶって大声で「1、2、3...」と10まで数える。

そしてお風呂場まで戻り、「次はスティーブンが鬼。」と言ってぬいぐるみにナイフを刺すと、衣装部屋のクローゼットにすぐさま隠れた。

ひとりかくれんぼを実行してから10分程は、何も起きなかった。

Ｙ氏は「やっぱり、ウワサだけか。」と気落ちして、そろそろこの暇つぶしを終えようとクローゼットの中から出ようとした。

突然、テレビの砂嵐の音がブツン、と急になくなった。

そして代わりに、キッチンから何か音がする。

「とうとう来たか！」

内心わくわくしながら、念のために用意した塩水入り水鉄砲を手にしてキッチンへと向かった。

キッチンに近づくにつれ、シューッという甲高い音が大きくなる。

何の音だ？と思いながら、水鉄砲を構えてキッチンに入る。

キッチンに入った瞬間、Ｙ氏は2つのこと気づく。

1つ目は小さな影がキッチンを走り抜けたこと。そして2つ目はガスコンロに掛けてある圧力鍋。

「まずいっ！」とＹ氏がキッチンから飛び出した刹那、圧力鍋が爆発する。

爆発の衝撃で部屋全体が大きく揺れ、キッチンの壁が、天井が、家具がめちゃくちゃになった。Ｙ氏は酷い耳鳴りがしながらも、爆発からは辛くも逃れていた。

床に体を伏せた状態で「あ...あ...」とＹ氏がうなっていると、豪快な音を立てて玄関のドアがぶち抜かれた。

4人の屈強な男が突入してくる。大金持ちのＹ氏の父親が息子を心配して、秘密裏につけたボディーガードであった。

「坊ちゃん、大丈夫ですか？何があったんですか？」

M4A1カービンを構えた状態でリーダー格の男が尋ねる。Ｙ氏はリーダーに助け起こされながら「ぬいぐるみが...爆発が...」と、要領を得ないままこれまでのことを説明する。

Ｙ氏の話を聞いた4人は大きく笑うと、「坊ちゃんの不安を取り除いて差し上げますよ。」とリーダーはＹ氏を勇気づけた。

「後はそんなおもちゃじゃなく、こいつを持っててください。」とリーダーはＹ氏に拳銃を手渡した。

そしてリーダーは3人に向かって小声で指示を出す。

「よし、3人で部屋を探索しろ。俺はここに残って坊ちゃんを警護するから、何かあったらすぐに連絡するんだ。坊ちゃんはこう言っているが、こいつをやらかした奴は凶暴な変質者だろう。気をつけていけ。」

3人ともコクン、とうなずくと二階へと向かって行った。

3人はまず、二階の1番大きな部屋である寝室を探索することにした。

M4A1カービンを構えて3人は寝室に突入する。3人は死角を作らないようにフォーメーションを作りながら、部屋の探索をする。

部屋には異常はなく、フォーメーションを解いて寝室を出ようとした。

1番前の男が部屋を出た瞬間、ドスンッと最後尾の男が崩れ落ちる。その音で振り向いた2人が見た物は、ナイフでのど首をかっ切られて血を吹き出している仲間の姿。そして、ガス缶とライターを構えたクマのぬいぐるみであった。

そのことを理解した瞬間、2人は銃を構えようとするが遅すぎた。ぬいぐるみの持った即席火炎放射機に2人とも焼かれる。顔を焼かれ、そしてその炎の熱により、男達の銃の弾が暴発した。

爆竹のような音が数十発響くと、2人の男は燃えながら倒れた。

Ｙ氏と居たリーダーはこの音を聞いたことで、異常事態が起きたのだと理解した。そして、無線が帰ってこないことに、隊員が全滅したのだとも理解した。

「坊ちゃんはどこかに隠れていてください。私は上を確認してきます。」

そうリーダーは言い残すと、Ｙ氏を残して二階へと上がる。

二階に上がると寝室と廊下を跨ぐようにして倒れている仲間の姿が見え、リーダーは用心深く寝室に近づく。

「一体何があったんだ...？」

ゆっくりと寝室に入る。死んでいる3人以外は確認出来ない。

左右を確認し、ふいに上を見た時、天井に掴まるぬいぐるみの姿が見えた。

「居たぞぉぉっ！」

大声で喚きながら、リーダーの持っていたM4A1カービンが火を噴く。しかし、手に持っていたM4A1カービンは天井から降ってきたぬいぐるみに蹴り飛ばされた。

銃を蹴り飛ばされたリーダーは考える間もなく、予備に持っていたベレッタを抜いて連射した。

15発の乾いた音がこだまする。廊下に出て、ぬいぐるみから距離を取ったリーダーは、ベレッタのリロードをしながら寝室の様子を窺った。

「なんて野郎だ...」

床を確認すると、ぬいぐるみも負傷したのか生米が床に散らばっており、よくよく見るとそれはベットの裏側に続いていた。

リーダーはすばやく寝室に飛び込むと先ほど蹴り飛ばされたM4A1カービンを手に取り、ベッドの裏側に向けて予備の弾丸も含めて全弾打ち込む。硝煙が立ち込む中、M4A1カービンを捨ててベレッタを構え直すと、慎重に弾痕だらけとなったベッドの裏側をのぞき込んだ。

「居ない...？」

ベットの裏側で生米が途切れていた。

「クソッ、だまされた！」

リーダーが顔を上げたとき、ベットの上に立つぬいぐるみが見えた。

ベレッタを撃とうとするのと同時に、飛び上がってきたぬいぐるみの掌底がリーダーの顎に綺麗に入る。

ガクンと、リーダーの脳が揺れ、一瞬だけ意識が飛ぶ。ぬいぐるみはその隙を見逃さずに、リーダーのベレッタをはたき落としながら着地をした。

「このクソやろうがぁっ！」

意識を取り戻したリーダーは目の前に着地をしたぬいぐるみに蹴りを入れる。しかし蹴りは躱された挙げ句、逆に蹴りの力を利用されて足下を掬われた。

「ぐっ！」

後頭部から仰向けの体制で崩れ落ちる。すぐさま体制を立て直そうとして上半身を上げたとき、胸の上にぬいぐるみが立っていた。

リーダーがこの世で最後に見たのは、自身に後ろ蹴りをたたき込むぬいぐるみの姿であった。後ろ蹴りにより頸椎を砕かれたリーダーは、物を言わぬ死体となった。

そうして話は冒頭へと戻る。

クローゼットに立て籠もり、震えていたＹ氏の頭の中に声が響く。

「どうした？俺と遊びたくて呼んだんじゃないのか？(CV.大塚明夫)」

何で頭の中で声が響くんだ...？とY氏はがたがたと震え続ける。

「そんなところでガタガタ震えてるなんて、まるで子猫ちゃんみたいだな。(CV.大塚明夫)」

「男ならそんなところに隠れていないで、正々堂々戦おうじゃないか。(CV.大塚明夫)」

クローゼットの隙間から外を確認する。ぬいぐるみが立っていた。

「うわぁっ！」

Y氏は恐怖に耐えかねてクローゼットから飛び出すと、ぬいぐるみに向けて拳銃を乱射する。

「やったか..？」

ぬいぐるみの腹部に大きな穴が開き、右腕がもげかけていた。それを確認したY氏は空になった銃を握りしめて、部屋から玄関へと走る。

「外まで逃げられれば助かる！」

素足のまま玄関に出て外に出た瞬間、微かな物音がしたので後ろを振り返った。

「うっ...」

Y氏の首にサバイバルナイフが突き刺さる。そしてY氏は首にナイフが突き刺さり、倒れ伏した状態で気づく。

ひとりかくれんぼを終わらせていないことに、そしていつの間にか廊下に這いずり出てきたぬいぐるみが投げたナイフが当たったのだと。

そこまでY氏は考えながら、ゆっくりと命が首から流れ落ちていくのを感じた。

次の日の朝、大金持ちのY氏を含む5人の男が、自宅で異常な殺された方をしたことでトップニュースとなった。

そして、ニュースで証拠品を押収する警官達の姿が映ったのだが、ある警官の一人がクマのぬいぐるみを押収する姿も映し出されたのであった...