第2話 地獄

 僕達が目を背けていた現実がそこにはあった。

 就職活動も七月に差し掛かり、志望先を福祉業界に決めた僕は、あちこちの施設を見学していた。その中で特に印象に残っている施設があった。

 そこは所謂、旧来の福祉施設のイメージが色濃く残っていた。そのせいか、どこか雰囲気が重く、かび臭かった。

 こんな言い方をするのは間違っていると思うが、そこは地獄だった。五十人以上いる利用者に対して、受け持っているのはわずか十人たらず。いくら3Kと言われている業界だからと言っても、もう少し、ゆとりを持たせた上で、人員を割いてくれてもバチは当たらないと思う。

 しかも、利用者と職員とのコミュニケーションが成り立っているとは言い難く、どこか一方通行だった。職員からしてみれば、仕事だと言う面があるのも否めないけど、もう少し、声掛けをする必要があるのではないのかと考えてしまう場面がそこにはあった。

 そんな僕の気持ちに関係なく、施設見学は続く。そして、僕は更なる深みへと迫ることになったのだ。

 その建物は認知症の方々のために作られたものだった。エントランスホールと利用者フロアには一つのガラス扉が説置されていた。ガラス越しに見える景色には、剥き出しにされた洋式トイレと徘徊する利用者の姿が見て取れた。 

 衝撃だった。利用者がまるで隔離指定生物か、囚人のように扱われているような気がしてならなかった。まるで世界から見捨てられたような、どこかリアルではない場面が広がり、愕然とした。

 誰もが自分らしく生きられるような生活を提供していくのが福祉の理念であるはずなのに。まるで正反対の現実がそこにはあった。心にしこりが残った。

 見学の最後に、コーヒーを飲みつつ、改めて施設の理念を聞かされた。

 でも、正直ほとんど聞いていなかった。

 目の前の現実、世界を受け入れたくない心が情報をシャットアウトしたからだ。

 そんなことがありつつも、あの頃の僕はまだ福祉に対する情熱を持っていたから、次の場所に向けての希望を募らせていた。

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介護業界に入ったが適応障害になり半年で辞めた23歳男性の記録 花本真一 @8be

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