きみへの手紙

@soranoao0202

第1話

例えば


キミがこの先、ひどく傷つくこともあるだろう。

泣き喚くことすら叶わず、唇を噛んで零れ落ちる涙の作る染みを見ないふりする日もあるだろう。

誰からも理解されないように感じ、全てのものが敵に見えるかもしれない。

隣で誰かが励ましてくれても、自分を何一つ理解していないと感じるかも知れない。

夜の帳は全てを包み、キミの人生を覆いつくす。

悲しみの連鎖の中で人生の目的すらを失い、キミは君の形を失う。

そんな時でも空は憎いほどに晴れ渡り、青く世界を包み込む。

キミを愛しているといった人は、キミの居ない場所でも楽しく笑っている。


あぁ、なんて悲しいことだ。


いくら願っても悲しみはキミの腕を引き、足に縺れる。

希望に向かって伸ばした手は空を掴んでキミを助けない。


だけど、


どうか


どうか忘れないで欲しい。


キミを愛していると言ったアノ人も

世界を包むあの空も

キミにだけ見えた微かな希望も

全てキミを導いている


振り返ればそこには確かにキミがここまで歩んだ軌跡があって

前を見れば道はない

人生という道なき道を、キミは確かに今まで刻んで生きてきた。


あぁ、なんて素晴らしいことだろう


泣きながら

喚きながら


それでもキミは生きてきた。


この先キミは、何度似たような苦しみに襲われるのだろう。

その時キミは何を思い、何を感じるのだろう。

頭の痛くなるような悩みを。

涙の枯れ果てるような苦しみを。

手足をがんじがらめに絡め取るような重圧を。

キミは何度経験するのだろう。


私たちは、そんな想いを経験しながら、どうして生きるのだろう。




私はこのように考える。


私の前に立ち塞がるこの痛みたちは、私の身体を、心を深く傷つける。

これまでの人生で、私の心身はもう傷だらけだ。

涙も枯れ果てたと、何度も感じた。

ただ、それでも


晴れた朝を迎えると心が躍る。

湯気の立つコーヒーの香りに笑みがこぼれる。

新しい靴を履いて、洗い立てのシャツで新鮮な空気の中に出かけると、足は軽やかに地面を蹴るのだ。

眠気を誘うような陽気は心地よく、友と笑えば傷も癒える。

人の痛みに涙を流し、キミの笑顔に救われる。


私はそんなかけがえのない日々に出会うために生まれたのだ。


私にはキミにかけてやれる言葉が少ない。

言葉は多く知っているほうだと自負していたのに、涙を流すキミの姿に全ての言葉はその形を潜めた。

ぽたりぽたりと零れ落ちる涙を見つめ、私に言えることは何もない。


深く傷ついたそのキミの心が、癒えるには相当の時間を要するだろう。

両手は震え、心は閉ざされ、もう何も見たくないと目を閉ざし、これ以上何も聴きたくないと耳を塞ぐだろう。


それでも良い。


それでも青いあの空は、小鳥のさえずりと共に、キミが目を開いて耳を澄ますのを待っている。

キミを愛しているといったあの人は、キミが笑いながら、太陽の下で凛と背を伸ばして旅立つ日を待っている。



言い訳をしてはいけない。

キミにどうしようもなかった現実を、それでもキミが決断して生きてきたのだから。

振り返り、キミの軌跡を見れたのならば、キミは再び前を向いて歩いて欲しい。


キミを傷つけた今は明け、太陽の下へキミを押し出す。

強く強く背中を押して。

キミは逃げずに立ち向かい、大きく大きく成長するのだ。

泣いても良い、喚いても良い。

キミがこれまで歩んできた道が、これからのキミの進む軌跡が、これからもキミを作るのだ。



どうかキミにも感じて欲しい。


光を。

闇を。

太陽を。

月を。

悲しみを。

喜びを。


全ての人を彩る希望を。


弾けるように笑うキミの、笑顔がくれた私の感動を。



どうか…。

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