第79話 女装男子は、不審な足音に気づく

「……あのさ」

 不意にアルが私に声をかけた。


「なに」

 なんとなく警戒して私は彼を見た。

 アルは顔を起こし、立てていた膝を崩す。私の方に向き直って何か言おうとした矢先だった。


 足音が、した。

 下草を踏みしだくような。

 だけど、ゆっくりと、そして忍ぶような足音だ。


 私はアルを見る。アルも私を見ていた。

 足音は、廊下からではない。


 壁の向うだ。

 外。

 外から聞こえる。


 しかも、細心に注意を払って足音を消そうとしているが、これは、一人じゃない。

 二人でもない。


 この足音は、もっといる。


「……屋外でもダンスするの?」

 思わずアルに尋ねて、呆れたような顔をされた。

「見てくる」

 そう言って立ち上がるから、慌てて私も中腰になる。


「危ないよ! 門兵を呼んで来よう!」

 私の言葉に、アルは首を横に振る。


「その間に逃げられるか、何かされても困るだろ。ちょっと見てくる」

 言うが早いか、アルは駆けだす。仕方なく私もその後を追った。


 アルは書庫の扉をするりと抜け出ると、廊下を走る。すぐに観音扉の窓を見つけ、手早く開いた。風が、強い。吹き込んだ風にアルは目を細め、それから身軽に外に飛び出した。

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