第59話 男装女子と女装男子は、あの晩領主夫妻に経緯を話す

 あの晩。


 結局馬車で馬を預けている宿屋まで戻った。宿屋の主人にお願いし、アルはお金を払って男物の服を購入。私はアルが着ていたワンピースに着替えた。そのまま、領主館に戻り、夜分ではあるものの、ユリウス様とアレクシア様に同席して頂いて、二人で報告を行ったのだ。


 キャロルを殺害した犯人を捜そうとしていたこと。以前から夜に領主館を抜け出して、二人で街を彷徨っていたこと。そこで知り合ったローラもキャロルと同じ首飾りを貰ってから殺害されていたこと。街娼が「三」にまつわる不思議な話をしたこと。首飾りの細工がどうも奇妙であること。


 それら一切を話し終えた頃には、一時間ばかりが過ぎていた。


 ユリウス様は神妙に、アレクシア様は溜息をついてお聞きになっていた。

『わかった。今後、こちらで検討しよう』


 ユリウス様はそうおっしゃり、侍従のひとりに、『ウィリアムを呼んでくれ。もう夜も遅いからオリビア一人で帰館させるのは危ない』とおっしゃった。


『いえ、私は大丈夫ですから』

 と慌てて断ると、からかうような視線で私をご覧になった。


『ウィリアムに夜遊びがばれたら叱られるぞ。俺から上手く説明してやろう』

 そう言ってくださり、改めて、そうだ、ことの仔細がお父様に知れるのだ、と顔が青くなる。


『だけど、よく館から夜外出できましたね。どうやって抜け出したんです。門兵を仲間に引き入れたのですか?』

 私の怪我を知らないアレクシア様は、『無事だったから良かったものの、危ないところでしたよ』とぶつぶつおっしゃりながらも、アルにそうお尋ねになる。


『あなたがたの口車にのって仲間になったのなら、とんでもない門兵です』

 アレクシア様の怒りの矛先が無実の門兵に向かいそうになり、アルは首を慌てて横に振る。


『いえ、変装して館から出入りしていたので……』

『変装? アルが?』

 アレクシア様はおっしゃり、アルがその時着ていた庶民が着るような服装に視線を走らせて首をかしげる


『……その恰好なら、アルだとわかるはずでしょう』

『……その』

 アルは深い青色の瞳を忙しなく左右に揺らし、ぼそり、と答える。


『女装を、しておりました』

 これには、ユリウス様もアレクシア様もしばらく言葉を無くされ、まじまじとアルをご覧になる。視線で穴が開くんじゃないか、と見つめられた後。


 ふと。

 アレクシア様が小さく噴出した。


 てっきり怒られるか呆れられると思っていたので、アルは拍子抜けしたようにアレクシア様を見る。その隣ではユリウス様も珍しくお腹を抱えて笑っていた。


 その後のことを、実は私は良く覚えていない。

 倒れたからだ。

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