第37話 女装男子は、改めて男装女子が『嫁に行く』のではなく、『婿を取る』ことに気づく
ああ、なるほど。アレクシア様はそう言い、ケーキナイフに手を伸ばす。テーブルの中央の大皿の上に乗ったアップル・パイを引き寄せると、慣れた手つきで切り分け始めた。
「母上。オリビアはお腹がすいているから、大きいのがいいそうです」
途端に何故かご機嫌になり、アルがそんなことを言い出す。「ちょっとっ」。私が怒鳴りつけると、アルは小さく舌を出して口を閉じた。
「オリビアのことが片付かないことには、シャーロットも落ち着かないみたいだな」
ユリウス様が苦笑しながら、ティーカップに指をかける。
「まぁ。まだ、婚約だの結婚だのは早い気がするが」
紙のように薄い磁器のカップを口唇にあて、からかうようにユリウス様はお父様を見た。
「父親の立場としては、どうなんだ? 娘を手放すのは惜しかろう」
そう言われ、なんとなく私はお父様の顔を見る。お父様は、アレクシア様が切り分けたアップル・パイをサーブ用のナイフで皿に取り分けながら、「うーん」と呻った。
「まぁ。遅くても早くても、結婚しなくても、どれでも……。僕自身が結婚が遅かったから、なんとも」
「オリビアはどうなの? シャーロットは焦ってるようだけど」
アップル・パイを切り分け終えたアレクシア様は、席に坐りながら私にお尋ねになる。
気付けば、私も「うーん」と呻っていて、ユリウス様とアルに「やっぱり親子だ」と笑われた。
「別に無理に結婚しなくてもいいよ」
お父様が肩を竦めて私の前にアップル・パイを差し出す。気付けば、皆の前にも皿はすでに並んでいた。
「そうはいかないでしょう? スターライン家はどうするの」
私が眉根を寄せてお父様を見ると、お父様は驚いたように目を見開いた。
「こんな家、潰れてもいいよ」
「いや、それはだめでしょ」、「いくらなんでもその言い方は軽すぎる」
私とユリウス様は同時にそう言い、お父様は顔をしかめて手を横にひらひらと振る。
「殿下に爵位と領地をいただきましたが、僕自身は田舎の平民ですからね。オリビアが死んだら、どこかの貴族にまたやってください」
「お前な」
ユリウス様が呆れてそう言い、私も頷く。
「私は一人っ子だもの。誰かを婿に迎え、子を産んで、そしてスターライン家を次に伝えなくっちゃ」
「子どもの方が余程しっかりしていますよ」
アレクシア様が呆れたように言い、ティーカップを両手で包んだ。
「……婿を、とるのか」
ぽつり、とアルが呟くのが聞こえ、私は彼に顔を向けて頷いた。
「そうよ。私が嫁に行ってしまったら、スターライン家がなくなってしまうもの」
私がそう答えると、「家なんてどうでもいいって」とまだお父様はぶつぶつ言っている。
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