第38話 女装男子は、昔から両親の結婚の経緯を聞かされて育ったから、あまり興味が無い

「どんな男性がいいの?」

 不意にアレクシア様が私にそうお尋ねになる。私は目を瞬かせた。

「私も誰かあたってみるわ。どんな殿方が理想なのかしら」

 両手で包んだカップを口元に寄せながら、アレクシア様は瞳を細めて私をご覧になる。紅茶を口に含むアレクシア様に、ふと私は尋ねてみたくなった。


「……アレクシア様は、ユリウス様が理想の殿方だったんですか?」

 そう尋ねた途端、アレクシア様が激しくむせ返った。


「わぁ! なんかすいませんっ」

 カップをソーサーに慌しく戻し、テーブルに背を向けてごほごほと咳き込むアレクシア様に、私は慌てて声をかける。


「なにやってんだか」

 ユリウス様が呆れたように立ち上がり、近づいてその背を撫でた。


「なんでそんなことを?」

 お父様が笑いながら私に尋ねる。


「いえその……。運命の相手って、見たら分かるのかな、と思って」

 私はなんとなくウロウロと視線を彷徨わせながらそう言った。


「殿下は一目でわかりましたね、運命の相手を」

 お父様は椅子の背もたれに上半身を預け、にやにやと笑いながらユリウス様を見る。


「うるさいな」

 ユリウス様がじろり、とお父様をにらんだ。だけど、私は勢い込んでアレクシア様を見る。


「じゃあ、やっぱり、アレクシア様も、ユリウス様をご覧になった時、運命の相手だと、お思いになられました?」

 アレクシア様は、ようやく咳が治まった顔を更にしかめ、背中をなでるユリウス様を見上げた。


「……なんだよ」

 ユリウス様が仏頂面でアレクシア様に声をかけた。「はっきり言えば?」。そう言われ、アレクシア様は苦笑して私に視線を向ける。


「はっきり言えば、第一印象は最悪でした」

 途端にお父様は爆ぜたように笑い、アルは口をへの字に曲げている。なんだか私は意外だった。


「出会って、こう……。運命を感じたのではないのですか?」

 私は驚いてアレクシア様に尋ねるけれど、アレクシア様は首を横に振った。


「強いて言うなら、サイテーだと思っていました」

 唖然としてアレクシア様の隣にいるユリウス様を見る。ユリウス様は嫣然と微笑み、私に告げられた。


「サイテーを最高に変えた男だよ、俺は」

「上手いこと言ってますけどね、殿下」

 くつくつとお父様が笑いを堪えながらユリウス様に話しかけた。


「見ているこっちは、ハラハラものでしたよ」

「そうなの?」

 お父様に顔を向けると、片目を瞑って見せたけれど、特に何も言わなかった。


「……運命の相手って、一目で見て、分かるんじゃないのかなぁ」

 なんだか紅茶のカップに視線を落とし、私は呟く。一目で『ああ、このひとだ!』と分かるような……。そんな印象と言うか、感覚があるものだと思っていた。少なくとも、お母様の話を小さな頃から聞かされた私は、そんなものだと思っていた。

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