第22話 女装男子は、知人のローラについて語る

『ローラも同じ首飾りをしてたんだ』


 キャロルが屋敷から外出先に移動する最中、誘拐され、その後御者、侍女ともども死体で発見されたと聞いた時、アルは私を領主館の第二書庫に引っ張って行ってそう言った。第一書庫とは違い、ほぼ永久保存版の蔵書たちなので、人の出入りがほぼない。私とアルは、小さな頃から秘密の話をする時は、そこを使っていた。


『ローラって誰』

 思わず目を瞬かせる。

『街で知り合った花屋の娘』

 アルが端的に答え、私は顔を顰める。私が知らないうちに何度か夜の街を勝手に歩いているのだろう。私の知らない、そしてアルだけが知る知り合いがどんどん増えている。


『ローラも、あの首飾りをしてたんだ。『もらったんだ』って』

『あの首飾りを?』

 同じものをしていた、というより、街の娘があんなに大振りなエメラルドの首飾りを持っている、と言うことに驚いた。


『好きな男にもらった、って。てっきりおれ、玉の輿でも掴んだのかと思ってさ。綺麗な女だったし』

 綺麗な女。その一言で、おもわずじっとりとアルを睨んでいたのかもしれない。


『変なこと考えんなよ』

 アルはむすっとしたように私を見る。

『酔っぱらいに絡まれてるところを助けたんだ。こっちは女装してるし、ローラは最期までおれが女だと思ってたよ』

『最期まで?』

 なんだかその言葉にひっかかりを覚え、おうむ返しに尋ねる。


『死んだんだ、ローラ』

 アルはぶっきらぼうな声で答えた。

『いつもどおり行商に行ったんだ、って家族は言ってた。だけど、家に戻って来なくて、行方不明になって……。みんな心配していたら、三日後に、ダンベル川で遺体で上がった』

『……犯人は?』

 言いながら、キャロルを殺した犯人もまだ捕まっていないことを私は知っている。アルはそんな私の心を見透かすように首を横に振った。


『あの首飾りが無くなっていたから、物盗りの犯行だろう、って街の衛兵たちが言っていた、と家族が教えてくれた』

『その、ローラと同じ首飾りを、どうして今度はキャロルが?』

 私は眉間に皺を寄せる。


 あの時、キャロルは言った。

『男性の方からの、贈り物なの』

 キャロルの声が耳によみがえる。


『……マクドネル男爵が、ローラにも贈ったのかしら?』

 私が思わずそう呟くと、アルは大きなため息を吐いた。


『いないんだ、そんな男爵』

『……へ?』

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