第17話 男装女子は、猫かぶりな幼馴染を見る
キュンツェルはやはりこの国の言葉に疎いらしい。自国語のカールスルーエ語に変えて、アレクシア様に話しかけた。
「この領は素晴らしい。商人だけでなく、あなた方のような貴族とも交易が出来る。いろんな身分の方と仕事ができるので、商売の幅が広がる、と」
アレクシア様が伯爵夫妻に通訳をする。伯爵はくすりと笑い、キュンツェルをにらみ上げる。
「私達貴族を食い物にして、利益は商売人同士で山分けするつもりだろう。そうはいかんぞ」
アレクシア様が素早く通訳をし、キュンツェルは大げさに目を見開いてみせる。
「伯爵にはいつも『勉強』をさせていただいていますのに、その言い方はあんまりです」
キュンツェルの言葉に、その場の皆が鷹揚に笑って見せる。
「アルフレッド殿下には、是非是非お願いしたいことがございます」
皆の笑顔を満足そうに一瞥し、キュンツェルは最敬礼を再び行う。通訳をしながらも、アレクシア様は少し心配そうな目をユリウス様に向けた。
「息子にできることだろうか?」
ユリウス様は流暢なカールスルーエ語で間に入る。これだけ堪能ということは、アレクシア様は、伯爵夫妻に対しての通訳として役割を果たしているらしい。キュンツェルは深々と頭を下げ、そして顔を上げた。
「どうぞ、代替わりの後も、このような寛大な貿易措置を宜しくお願いたします」
その言葉に、誰もが小さく安堵の息を吐いた。無理難題、というわけではなようだ。
「おお。それは私からもお願いしようではないか」
伯爵が口を開き、アルとユリウス様に笑いかけた。
「このような自由な海からの風を、ルクトニアに永遠に吹かせていただくように」
「もちろんです」
アルは大きく頷くと、ユリウス様を見上げた。
「出来る限り、父上の後を引き継がせて頂きます」
そう言う息子を、ユリウス様は目を細めて眺め、それから軽くその背を叩いた。
「まだまだ子どもなので、心配なのだが。今後とも宜しく頼む」
ユリウス様にそう声をかけられ、「ははっ」とキュンツェルは恐縮して頭を下げる。
「ですが」
ふと、伯爵夫人が言葉を洩らした。
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