第16話 男装女子は、女装男子の両親の恋愛について考察する

「うち?」

 今度はアルが素っ頓狂な声を上げた。私は大真面目に頷く。


 ユリウス様が、在位2年で王位を退き、もともと妹君の持領であったルクトニア領主に封じられたのは、アレクシア様と結婚するためだ、というのが公然の秘密だ。

 アレクシア様の『亡命貴族の子』という出自が結婚を妨げたと聞く。

 ユリウス様は悪王と名高いヘンリー王を討ち、その後様々な施策を提案して国内を安定させてから退位。アレクシア様とご結婚なさったという。


「うーん……。そう、かな」

 アルにしては歯切れ悪くそう言い、困ったように笑って見せた。なんだろう。目を瞬かせていると、ほう、と切なげなため息が聞こえてキャロルを見る。


「どちらにしろ、そんな運命の恋を成就させたかった」

 キャロルはそう言うと、やっぱり少し寂しそうに笑う。


「失礼いたします」

 ふと、そんな声がかかり、私たちは同時に声の主を見る。


「殿下がお呼びです。アルフレッド様」

 そこには家令が微動だにしない礼の姿勢で控えていた。ちらりと視線を走らせると、ユリウス様と目が合う。その隣でアレクシア様が、先ほどの伯爵と交易商相手に何か話をされていた。


「わかった」

 アルが頷く。私はユリウス様の背後にいるお父様に視線を送った。お父様は小さく頷く。私はキャロルに口早に詫びる。


「ごめん。また今度、ゆっくりその男爵のお話を聞かせて」

「そうね。お茶会をしましょう」

 キャロルはそう口にしたものの、正直まだ話したりない、という顔をして、私とアルに小さく頭を下げた。私は後ろ髪を引かれる思いで彼女の前を去る。


「これはこれは、殿下」

 先に歩くアルが、ユリウス様の隣に控えるのを見て、キュンツェルと呼ばれた交易商が最敬礼をする。たどたどしい言葉で、どうやら話せるのは片言だと知れた。アルは、だけどそんなことをおくびにも出さず、慎み深く、そしてどこかぎこちなさを漂わせながら、返礼をする。


 ……性格を知っている私から言わせれば。

 猫かぶりもいいところだ。

 だけど、大人たちは『ほほえましい』とでも言いたげな笑みを浮かべてアルを迎え入れ、会話が始まった。

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