第15話 男装女子は、母の恋愛について考察する
ユリウス様の施策の元、このルクトニア領では、あまり身分差は関係なく商売はできる。
だけど。
それはあくまでルクトニア領に限った話だ。おまけに、ユリウス様の目の届かないところでは、やはり明確に『身分』が効力を発揮するのだろう。
貴族と縁続きになった方が有利だ。
キャロルのお父様がそう考えるのも当然だ。
「キャロル、末っ子だもんね。他の御兄姉はみんな、結婚されているんだっけ」
私が尋ねると、口をへの字に曲げて悲しげに笑う。
「お姉さま方も、みんな父の仕事関係のところに嫁いでいるから。別に私だけが見ず知らずの人のところに嫁ぐわけじゃないんだけどね」
まぁ、そう言われればそうかもしれない。私は、おずおずと頷く。多かれ少なかれ、そんなものだ。
「でもね」
キャロルは右手で首飾りのトップを玩びながら、私を見る。
「オリビアのお母様みたいに、やっぱり運命の相手と結ばれたいじゃない」
「うち?」
口から素っ頓狂な声が出た。すぐ側で、アルが小さく噴き出す声も聞こえる。
「シャーロットおばさまは、確かにウィリアム卿に運命を感じてるものね」
くつくつとアルが笑う。
私は戸惑いながら、キャロルとアルを交互に見た。
言われてみれば、そうかもしれない。
十四歳の時にお母様は、二八才のお父様に出会い、一目ぼれしたのだそうだ。
ただ、声を大にしてお父様は言うけれど、『本当に、一目ぼれされるようなことは何もしていない』のだそうだ。
その後、お母様は、父であるサザーランド伯爵が進める見合いが嫌で家を飛び出し、アレクシア様を頼ってルクトニア領に入領。ユリウス様が仲を取り持って、十七才の時にお父様と結婚したらしい。
本当は、『二十歳を待って』とお父様がサザーランド伯爵に伝えたらしいのだけど、強引に押し切られたのだそうだ。
お母様はことあるごとに私にそんな『素晴らしいお父様との出会い。そして結婚』を語ってくれるけど、お父様は苦笑するだけで、特に『素晴らしいお母様との出会い。そして結婚』を語ってくれるわけではない。
だから。
ルクトニア領での『運命的な恋』の代表かといえば、首を傾げざるを得ない。お母様は、ルクトニア領で有名な『押しかけ女房』だと思う。
『運命的な恋』といえば、ルクトニア領では、ひとつしかない。
「アレクシア様とユリウス様の方が、運命的な出会いよね」
まじまじとアルを見つめて私はそう言う。
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