第18話 領主の施策に不満を持つ人がいることを、男装女子は知る
皆の視線が集まるのを感じ、夫人は驚いたように口を閉じる。だが、ユリウス様が穏やかな青い瞳を向け、「どうしましたか」とお尋ねになると、忙しなく瞳を左右に揺らし、それから意を決したように、口を開いた。
「反対意見を持っている者もいると、最近耳にしました」
「反対意見?」
アルが不思議そうに首を横に傾げた。伯爵夫人は睫毛を震わせるようにして瞬かせ、それから夫である伯爵を見上げた。
「いえ、社交界でちらりと、とお聞きした程度なのですよ」
「殿下がお尋ねになっているのだ。話しなさい」
伯爵はユリウス様に視線を走らせ、それからゆっくりと妻である伯爵夫人を促した。
「やはり、身分は必要なのだ、と。どのような場においても。それを崩すようなことはならない、と。貴族は貴族で金を儲けるような浅ましいことはしてはならず、商売人はただ、一般人を相手に商売をすればいいのだ、と」
伯爵夫人はそう言った後、「私が言っているのではありませんよ」と慌てて首を横に振る。小声で通訳をしていたアレクシア様の言葉を聞き、キュンツェルは、心得ている、とばかりに頷いた。
「『身分』の差など関係なく、明確に、『利益』が出るからな、商売は」
ユリウス様がキュンツェルに苦笑してみせる。キュンツェルは困ったように口をへの字に曲げた。
「皆が皆、伯爵さまのように聡い方ばかりではありませんから。貴族だから、という理由で儲けが出ることばかりではありません」
キュンツェルの言葉をアレクシア様が通訳し、伯爵夫妻は顔を見合わせて躊躇ったように頷く。
「我々が聡いかどうかは別にして。商売の仕組みや商品価値、流通のことがわからず、ただ、『儲かるらしい』と聞いて安易に貿易に手を出す下級貴族がいるのは確かです。結果、手持ちの金を使い果たし、どんどん没落する姿を見たこともありますな」
伯爵がユリウス様にそう言って肩をすくめて見せる。
「何故、卑しい身分である商売人が得をして、何故、貴族のはずの自分が損をするのか。自分たちは騙されたんじゃないのか、そう罵る輩もいることは確かです」
伯爵はそう続け、伯爵夫人が夫の言葉を継いだ。
「結果、『身分』というものは絶対的に必要で、それを崩すようなことをしたから、一部の貴族が没落し、平民である商売人がのさばっていく。これはゆゆしき事態だ、と」
伯爵夫人は、そして一同を見回した。
「この施策が我が領や一部の貴族、一部の商人に利益をもたらしていることは承知していますが、どうぞ、その危険性についてもお忘れなく」
なんとなく。
場の雰囲気が重くなった気がした。アルは不安げに両親に視線を走らせ、アレクシア様はユリウス様をご覧になっている。
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