第14話 男装女子は、友人の婚約に焦る

「お父様から頂いたの? 立派な首飾りね」

 彼女のお父様が貿易品として扱っている物は、主に食料品だった気がするけれど、その交易の中で装飾品も扱うのかもしれない。そう思って尋ねたのだけれど。


「男性の方からの、贈り物なの」

 返ってきたのは、意外な言葉だった。キャロルは俯きながらそう言った。


「……婚約者?」

 なんだか胸が痛みながら私は尋ねる。そりゃそうよね。私ぐらいの年齢になれば、そんな話が大半な訳だし。だいたい、私自身、そんな話が来てるんだし。


 問題なのは、こいつが次々に潰してくれる、ってだけのことで。


 気付けば隣のアルをにらんでいたらしい。視線に気付いたアルが、不敵に笑って見せる。


「まだ、婚約ってわけじゃないのよ」

 キャロルは、赤みがひいた頬から手を離し、私に笑って見せる。

 おや、と思った。

 その笑みが、なんだか寂しげだ。


「……婚約、したくないの?」

 そう尋ねると、意識してキャロルは口角を上げて見せた。


「お父様は勧めておられるけれど……。私は……」

「差し支えなければ、どなたと婚約されるのかな」

 アルが静かに尋ねる。穏やかで、警戒心を抱かせない声に、相変らずこいつの『猫皮』の性能の高さに舌を巻く。


「マクドネル男爵です。オーガスタ・オブ・マクドネル男爵」

 マクドネル男爵。私は口の中で呟いてみるが、顔が浮かばない。隣に立つアルを見るが、アルも怪訝そうに柳眉を寄せた。


「領主館に来られるような、なにかその……。才があるわけでもないようですし……」

 キャロルはそう言い、言ってから自分が失言したと気づいたようだ。少し顔を青ざめ、首を横に振る。


「あの、深い意味が合って口にしたわけではないのです」

「こちらが不勉強で申し訳ない。マクドネル男爵とは、お父様の仕事関係で知り合ったのかな」

 アルが助け船を出した。キャロルは若干安堵したように息を吐く。


「ええ。父の仕事関係の知人が、とある男爵家で、現在女性を探している、と。金髪で、青い目の若い女性を、と」

「容姿指定なの?」

 思わず大声が出てしまった。慌てて口に手を当てて周囲を見回すが、皆、自分たちの会話に夢中か、楽団の音楽に耳を傾けているようで、私の声を咎める人はいなかった。


「珍しいね。身分指定ならわかるけど」

 アルが首を可愛らしく傾けて見せた。ああ、そうか、と思わず納得する。そうだ。貴族ならば、身分指定はあっても、容姿指定は確かにあまり聞かない。


「逆に、お父様はそこがいい、って。身分を問われたら、私を嫁に差し出せないから、って」

 ぼそり、とキャロルが呟いた。


「お父様、どうしても貴族との縁が欲しいようで……」

 なんとなく、アルと目を合わせてしまった。

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