第13話 男装女子は、首飾りが気になる
私がそう言うと、近づいてきた執事に空のグラスを返していたアルが顔を向けるのが視界の隅に見えた。
「エメラルド?」
アルが尋ねる。
「はい。そのように聞いております」
キャロルは首元にそっと指を這わせる。白く、しなやかな指には、ちゃんとマニキュアが塗られていた。
「変わった細工物だね」
アルにそう言われ、私は改めて首飾りを見た。
トップの要になっているのは大振りのエメラルドだった。そのエメラルドの両脇から蔦のように伸びるのは銀細工だ。
「よく見てもいい?」
アルがキャロルに尋ねるものだから、私は驚いて隣の彼を見上げる。キャロルも驚いたようだが、『否』とも言えず、おずおずと首を縦に振った。アルは輪郭を蜂蜜で溶かしたような笑みを浮かべ、そっと指をキャロルの胸元に伸ばす。トップのエメラルドに触れた瞬間、静電気が走ったかのようにキャロルの肩が跳ね上がり、白い彼女の頬が桃色に染まる。
だけど。
アルは全く気にしていない。
念入りに首飾りの細工に指をなぞらせていた。
ってか、近いのよね。胸に。胸元に。
首飾りのトップの位置が鎖骨の少し下辺りにあるし、今日はキャロルがデコルテの開いたドレスを着ているせいで、見ようによっては上から覗き込んでいるようにも見える。
「その、蔦の模様が気になるの?」
真っ赤になって縮こまるキャロルが気の毒になり、私は咳払いをしてアルに尋ねる。
「ん?」
アルは目を瞬かせて私に視線を向けた。
「エメラルドの周りについてる、その蔦の銀細工が気になるの?」
再度そう言うと、「蔦ね」。そう呟いて、アルはようやくトップから手を離した。
「ありがとう」
アルは穏やかにキャロルに微笑む。キャロルは弾かれたように首を横に振り、両手で赤らんだ頬を挟んだ。
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