第11話 男装女子は、言い負かされる
お祖父様はお相手をルクトニア領から叩き返し、私はアルに確認に走った。
『それ、おれ』
アルははっきりとそう言った。悪びれず、あっさりと。
『……なんで、そんなことしたの。見合い話、潰れたのよ』
茫然と尋ねる私に、アルはにっこりと笑いかけた。あの、蜂蜜で輪郭をとろかせたような甘い甘い笑みだ。
『これで、また一緒に夜の街に遊びに出て行けるな』
結局この男は。
私に見合い話が出るたびに、その男のところに女装で会いに行き、自分に惚れさせて帰ってくる。
「オリビア、男運がないんだよ」
グラスを揺らしながら、アルは瞳を私に向けた。
「あんな男達と深い仲にならなくてよかったじゃないか」
しれっとそんなことを言う。
「あんたが壊さなきゃ、深い仲になれるのよっ」
「おれに出会わなくてもさ、結局、あの男どもは、変な女に捕まって、将来オリビアが泣くはめになるんだぜ?」
アルはグラスの液体を飲み干した。微かに潤んだ口唇をゆがめ、アルは少し腰を屈めて私の顔を覗き込む。
「結婚して子どもとかできてさ。その後で、言い出すんだ。『実は運命の女性に出会ったんだ。君とはもう一緒に暮らせない』とかさ。で。男はその別宅に入り浸って、お前は子どもと、男を呪いながら暮らすんだ」
「変な予言しないでよ」
「惚れっぽい男って、結局、誰にでも惚れるんだよ」
アルは空になったグラスを手持ち無沙汰に揺すり、乾いた笑い声を立てた。
「一目で好きになりました、シャーロット様に似て素敵なお嬢さんですね、ウィリアム殿のご令嬢ですか。ならば情に厚いはずだ」
アルが私の顔近くで囁くのは、すべて見合い相手たちが私に言った言葉だった。
どこで聞いたんだ、こいつ。
思わず口ごもると、意味ありげににやりと笑われた。
「お前だけに言ったんじゃない。誰にでも、言ってるんだ」
アルが吐いた言葉に、どん、と胸を突かれた思いだ。
「お前も、ウィリアム卿も。見る目がねぇよ」
アルは腰を伸ばし、見下げるように私を一瞥する。
「次から次へと男連れて来るけどさ。どれもカスだ」
吐き捨てるように言う。本当に口が悪い。私は内容に傷つく前に、大人と私に見せるその態度差に呆れた。
「お前だってさ。クズ男と結婚はしたくねぇだろうよ」
顎をしゃくってそう言われる。
「そりゃ、そうだけど」
思わずそう返事をしたのが失敗だった。
アルは、空のグラスを持ったまま腕を組み、不敵に、だけどどこかミルクのような甘さを湛えて私に笑いかけた。
「おれがふるいにかけてやったんだよ。感謝しろ」
聴いた瞬間、唖然とした。なにを……。何を言ってんだか。
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