第7話 男装女子は、幼馴染につっかかる

 瞬間的に眉間に縦皺が寄る。いや、私だけじゃない。向こうも目を細めてじっとりと私をにらんでいるんだから似たようなものだ。


「殿下」

 ふと、聞きなれない声が聞こえ、一斉に皆が顔をそちらに向ける。


「あちらの伯爵様が」

 いつ近づいていたのか。このお屋敷の家令が恭しく一礼をし、白手袋を嵌めた手で会場の一角をするり、と示した。「ああ」。ユリウス様が返事をする。その声は、あの対外的に作られた、硬く、だけど内にしっかりとした意思を秘めた声だ。視線を向けると、すでに『前王ユリウス・オブ・フォードランド』の表情で、自分が向かう先を見ていた。


「キュンツェルがいるな」

 ぼそり、とユリウス様がおっしゃる。家令が示した方を改めてみると、伯爵夫妻らしい五十代の二人の隣りに、異国の装束を着た男性が、静かに一礼をしているのが見えた。


「通訳に参りましょうか」

 アレクシア様が声をかける。ユリウス様が小さく頷き、さりげなく肘を出す。アレクシア様はその肘に腕を伸ばした。


「オリビア」

 家令が先に立って歩き、ユリウス様がアレクシア様をエスコートしてその後をついて行く。それを見ていたら、お父様に声をかけられた。


「はい」

 返事をすると、ざっと頭からつま先まで視線を流された。私が動きやすい格好をしているか、武器を携帯しているか、長上着の下に防御用の皮鎧を着ているか確認しているようだ。


「アルフレッド坊ちゃんのお側にいるように」

 満足そうに頷くと、お父様は私にそう告げた。「はい」。私は答え、お父様がお二人の後を音も無くついて歩くのを見送った。


「オリビアも何か飲む?」

 不意に背後から声をかけられ、振り返ると、アルが銀盆を持った執事から足の長いグラスを受け取っているところだった。


「結構です」

 アルにはキツイ声で答え、銀盆を差し出した執事には、丁重に頭を下げた。執事は優美な仕草で一礼すると、銀盆の上にいくつものグラスを乗せたまま、また会場の人波の中に消えていく。


「アルでしょ」

 私はお父様たちがいなくなったのを確認し、アルを正面から睨んだ。長上着の裾を払い、両腰に手を当てる。左腰に佩刀した剣が拍子に金属音を立てたが、私は胸を反らして彼を見た。


「絶対、あんたよね」

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