第5話 男装女子は、つい最近見合いを断られた
「オリビアの婚期が遅れたらどうするんです」
アレクシア様の切実な声に顔を上げると、ユリウス様が思わずと言った風に噴出していた。口元を軽く握った拳で隠しているけれど、笑っていることは明白だ。その袖口には、小さく金の刺繍がされている。
「…………何かおっしゃりたいことでも?」
アレクシア様が険のある視線をユリウス様に送る。ユリウス様は、くつくつと喉の奥で笑いながら、ゆるやかに首を横に振った。
「男装してても変わらないだろう。普通に生活してて十九回も見合いを断られた女性を、俺は知ってるけど」
「十八回です、殿下」
素早くお父様がユリウス様に耳打ちする。
「一回はご自分からお断りされましたから」
ああ、と片目を見開いてみせるユリウス様を、アレクシア様がにらみつけて黙らせる。
「とにかく」
「オリビアに変な噂が立っては大変だと私は申し上げているのです。もう十五歳でしょう? 婚約の話があってもおかしくはないのに」
今度、小さく噴出したのはアルだった。私を含めた皆の視線が一斉にアルに向かい、アルは慎ましく咳払いをしてみせる。
「すいません。オリビアが婚約だなんて、なんだか遠い国のお伽噺のように聞こえて」
その仕草に、大人たちは互いに視線を合わせ、
騙されている。
この、甘くて可愛らしくて、幼い仕草や容姿に騙されている。
ぎりぎりと奥歯を噛み締めてアルをにらみつける私の耳に、耳さわりの良いテノールの声が響いてきた。
「まぁ……。おさななじみなんて、そんなものかもな」
ユリウス様が苦笑をし、アレクシア様が顔をしかめる。
「そうかもしれませんが。女の子なんて、十四、五で婚約し、その二年後には結婚するものです。アル、女の子は男とは違うのですよ」
アレクシア様が諭すようにアルに声をかけ、アルはわずかに口角を上げて何度か頷く。そんな様子をお父様も穏やかに見ていたものの、不意に口を開いた。
「ですが、つい最近も、見合いを断られましてね」
溜息混じりにお父様が言うものだから、私は慌てて「お父様っ」と声を上げる。
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