第4話 男装女子の幼馴染
私は長靴の足音も荒く、歩み寄る。いや、人を避けながら、最早小走りになっていた。
私が近づくにつれ、一番に気付いたのはやはりアルフレッドだ。
ユリウス様に話しかけ、アレクシア様に頷き、お父様に笑いかけた顔で、アルは私を見る。
斜交いに。
少し顎を上げ気味に。
見下すように。
金色の長い髪を一つに束ね、ユリウス様ゆずりの青い瞳で、睥睨するように私を見下ろしている。そして、アレクシア様譲りの薄い、形の良い口唇の端に意地悪そうな笑みを漂わせていた。
「まぁ、オリビア」
最初に気付いたのはアルだったけれど、一番に私に声をかけてくださったのは、アレクシア様だった。一度大きく目を見開き、それから困ったように目を細める。ふぅ、と小さく息を吐き、私に向かって両手を伸ばした。
「あなた、どうしてまたそんな格好を」
アレクシア様が腰を屈め、私の両頬を包んで顔を近づけてくる。ふわり、とアレクシア様がつけている涼感のある香りが鼻先を掠めた。ミントだ。なんとなくこの香りとアレクシア様の人柄が似合っていて、私は知らずに口元がほころんだ。
「笑い事じゃありませんよ。貴女はこんなに可愛いのに。それなのに」
作ったような怒り顔できゅっと私をにらみつける。そして私の両頬を包んだまま、冷ややかな視線をご自分の背後に向けられた。
「ウィリアムでしょう。どうせ、指示したのは」
尖った視線を向けられ、お父様は苦笑して肩を竦める。
「アルフレッド坊ちゃんを護衛できる格好で、とは娘に伝えましたよ」
「ウィリアム」
私から手を離し、アレクシア様は腰に両手を当ててお父様に向き直る。
「アルフレッドを守ってやる、といつぞやは約束してくれましたよね。貴方が、守ってやる、と」
アレクシア様に糾弾されるように言われても、お父様は笑顔を崩さない。
「守るよ。ただ、優先順位ってものがあってね。僕が一番に守るのは、殿下だ。アルフレッド坊ちゃんにまで手が回らなくなってきたから」
「だからって、貴方」
お父様とアレクシア様は言葉の応酬を始める。
私は改めて自分の姿を見下ろしてみた。
袖口と裾に銀の刺繍の入った上着だ。色は深緑色で、裾は腰をすっぽり覆うほど長い。流石に今流行の丈の短い上着を着る勇気は無かった。ズボンを履いて、お尻周りが見えるのは年頃の女の子としては恥ずかしい。しかも、嫁入り前だ。明るい茶色のズボンに、スウェード素材の長靴を履いている。
まぁ。
少女の格好か、と言われれば「違う」と断言されるだろう。これは明らかに「少年」の格好だ。
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