第3話 男装女子の父親と、領主家族

 思った瞬間、眉間に縦皺が寄った。


 楽団とは丁度反対側の壁際だ。

 そこには、談笑している一団がいた。


 中央にいるのは、ユリウス様だ。私の位置からでも目を引くほど綺麗な容姿をした男性で、今もシャンデリアの灯りを金色の髪が孕んで豪奢に耀いている。青い金剛石ダイヤモンドのような瞳はどこか人を寄せ付けない色を滲ませているが、私達に向けられた時は、穏やかになるのを知っていた。


 そのユリウス様の左にいて、ときどきユリウス様が話しかけているのは、奥様のアレクシア様だ。

 この国の人にしては珍しく、すらりと身長の高い女性で、顔立ちもどこか異国を髣髴とさせる。それもそのはずで、アレクシア様のお父様は、カールスルーエ国の亡命貴族なのだそうだ。

 異国の宗教画の天使に似た、凛としたお姿をしておいでで、女性らしい、というよりも中性的な感じがする。長く黒い髪を今日は結わずにおろしておられ、何が気になるのか、時折ユリウス様がその毛先を、ぴんと指で弾いてからかうように笑っている。


 その、ユリウス様とアレクシア様の後ろに控えているのは、お父様だ。

 ユリウス様、アレクシア様よりも背が高いから、二人の後ろにいても顔がはっきりと見えた。

 最近伸ばし始めたひげを、『似合っていません』とお母様に毎日詰られたせいで、今日は剃っているらしい。久しぶりに、ひげのないお父様を見た気がする。お父様ぐらいの年齢であれば、もう横にもどっしりと脂肪や肉がついてきてもおかしくないのに、毎日鍛錬しているせいで無駄の無い体躯をしていた。

 教会騎士らしく紺を基調とした軍服を着込み、右腕には腕章をつけている。


 その腕章を見て、ちくり、と胸の奥が痛む。

 私が、男だったら。

 きっと今頃、見習い騎士として教会に修行に出されていたのかもしれない。


 そして。

 お父様も、本当はそれを望んでいたのかもしれない。

 そんな思いを振り切るように、私は顔をユリウス様の右に向けた。

 そこには。


 アルがいる。


「あいつめ……」

 私は呟いて、更に眉間の皺を深くする。


 あーいーつーめー。

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