「乳児期をどう描くか」というのは現在の異世界転生ものでは、重要な論点と言えるかもしれない。
だって赤ちゃんの頃に前世の記憶が甦っても、寝転がるか、泣きわめくぐらいしかできなくて話が進まない。だからそういった赤子時代はダイジェストで流したり、あるいはある程度ものごころがついた年齢で前世の記憶が甦ったりする作品も少なくない。
だが、本作では主人公が赤ちゃんの時代から話がガッツリ進んでいく!
しかも生まれた瞬間から母親が路地裏で死んでいるという超ハードモードだ!
魔法を使ってネズミや虫から生命力を吸い取ったり、ハイハイで壁を登ったりして、なんとかスラムをサバイブするスキヤキくん(命名者本人)だが、赤ちゃんなのでやっぱり限界は来る。
そんな時に色んな人(?)に助けられて、彼らと交流を深める姿にはグッとくるし、やがて訪れる別れるシーンではちょっぴり泣けてくる。
こうやってあらすじを説明すると、ものすごくシリアスで重苦しい作品に思えるのだが、文章のテンポが良くギャグも頻繁に挟まれサクサク読めるし、スキヤキくんも台詞にいちいち「でちゅ」とつけたりして大変あざとくも可愛らしい。
最近の展開ではどうにか8歳児まで成長したが、それでもときどき語尾に「でちゅ」とつけるスキヤキくんはやはりあざとくも可愛らしい。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)